それでもアナウンサーになりたいですか?

あるネットニュース記事を見ていた時のこと。

それは、大谷翔平選手の結婚報道。
まだお相手が誰なのかわからない、
「とにかくオオタニが結婚したぞ!」
という第一報が世間を賑わせた時だった。

SNSも大騒ぎ。
その、コメント欄を見た時だった。

「女子アナとCAだけはやめてほしい」

女子アナとCAだと、なぜダメなの?
と思うと同時に、
こういう時は嫌がられる職業なんだなぁと再確認したできごとであった。
(もちろん全ての人がそう思っているわけではないのもわかっているが)

でも、そういうコメントが上がり、
それに対して賛同している人も多かったのは事実だ。

そして、お相手もわかり、
結婚報道も落ち着いた5月の中旬、
ネットニュースで見た内容は、

「CAや女子アナとは結婚してほしくない」といった声もあり、
アスリート同士の結婚に世間はなぜか安堵の気持ちを持った。」

(原文まま)

という内容を目にした。
またここで掘り返されるのか。

だから私は基本的に、
アナウンサーだったことを人には言わない。
聞かれれば答えるけど、
理由がない限り、自ら言うことはほぼない。

そしてまたある日。
私はなぜ人に言いたくないのか?
その理由をうまく言語化している動画を見た。

あるYouTubeで、アナウンサーの方が対談で言っていた。

「アナウンサーは性格悪いし、頑張っていない。
自分で最後までやんない、誰かがやってくれるみたいな何か…
泥臭く頑張っていないイメージ。
って言われたことがあって、
私ってマイナススタートなんだなと思った」と。

それを見た時、
私が人にアナウンサーだったと言いたくない気持ちを言語化してくれた、
と思った。

アナウンサーだった、
と伝えて、あまりいいことはない。
(個人的な感覚です)

すごいね!って言われることもあるけど、
自分では自分がすごいだなんて1ミリも思っていない。

だけど他人からは
さぞかし自分に自信があるんだろう
と思われてしまう。

「自分に自信がないとアナウンサーなんて仕事しないでしょ」

って思われるのがわかる。

実際に自分に自信があるのならそれでもいい。
でも実際の私はまったくそんなことはなく、
そう思われることとのギャップがなんとなく心地悪く感じてしまう。

そして、
「私はそんな自信ないんだよ。」
と本音を言おうものなら、

「それを言うとさらにイラッとされるよ。
アナウンサー目指すくらいなんだから、
自信ないわけないでしょ。
自信ないとか言わないほうがいいよ」

なーんて言われたこともある。

チヤホヤされてそう。
華やかな世界

そう思われることもある。

中には華やかな世界にいて、チヤホヤされるアナウンサーもいるのかもしれない。
でも、全員じゃない。
いたとしてもほんの特殊な一部なのだ。
そしてその人たちもかなりの努力をしているのは間違いない。
私の知る限り、アナウンサーの仲間は
とても努力をしていたし、
ただチヤホヤされている人は見たことがない。
そんな甘い世界ではないし、
むしろ、厳しい目を向けられることの方が多い。

現実はどうかと言うと、
(私の場合になるのかもしれないが)
めちゃくちゃ泥臭いし、
むしろ怒られるし、
チヤホヤの対極にいるのでは?というものだった。

本番数秒前まで怒鳴られることも多々あった。
それでも感情を抑え、
カメラの前で仕事をする。
華やかもない。
緊張感漂う厳しい現場だった。
できて当たり前、
ミスは許されない。

アナウンサーの主な仕事のひとつに、
「原稿を読む」というものがある。
ニュースはまさにそうで、
原稿を正しく読むのが仕事だ。

日本語を読むだけなら誰でもできる。
簡単なことに思われがちだ。

でも、テレビの前で原稿を正しくきちんと伝えるために、
陰でどれだけの努力をしてきたか。
それはアナウンサーにしかわからない。

わかりやすく伝えるためのものすごく緻密な技術と、
安定した声を出すための体力面での努力、
ハキハキと伝えるための滑舌の訓練、
秒単位で決まった尺を守らなければならない緊張感、
生放送というプレッシャー、

あの数分のために、
どれだけの泥臭い努力をしてきたか。
スポーツと同じで、すぐに身につくものでもなく、時間をかけて、うまくいかないことに悔しくて何度も涙を流し、
歯を食いしばって努力してきた賜物なのだ。

でもそんなのは表向きにもわからないし、
誰かに用意された原稿をカメラの前でただ読むだけ。
そんなふうにしか映らないと思う。

あとは、目立ちたい人
と思われがち。
これも否定をするとさらに批判を受けそうだが、
アナウンサー=目立ちたい
ではない。

本当に目立ちたいのであれば、
タレント、アイドルという選択肢もある。
でもなぜアナウンサーなのか。

私は実際に仕事をしてみて、
どういうところにやりがいを感じたか。
それは、ベクトルが自分自身ではないのだ。

それをわかりやすく表現しているのを、
私の所属する事務所の文章から見つけたので抜粋↓

アナウンサーは派手な仕事と思われがちですが、決してそうではありません。
主役(人や情報)を上手に引き立てることによって、自分の存在価値が高まる仕事です。

良いアナウンサーは聞き上手です。
声を使っての仕事ですが、
自分の主張をする為ではなく、
相手の話を聞く為に、
情報を活かす為に自分の声を使うのです。

まさにこれだった。
自分の存在によって、
自分以外の主役をいかに引き立てるか。

これがやりがいだったのだ。
私が誰かなんてどうでもよくて、
伝えるべきものが、どうすればより人に伝わるか?

それこそがやりがいであり、
目指していたものだった。

アナウンサーの役割は、
自分が前に出ることではない。
いかに黒子として、伝えるべきものを人に届けるか。

仕事によっては、
キャラを出すとか、大きなリアクションを求められることや、
タレントさんと対等に前に出なければならないものもある。

でもそれは本当に仕事の一部であり、
アナウンサーとしての基礎があってからこそなのだ。

例えば、キャラの目立つ田中みなみさんは、
ものすごくアナウンス技術が高く、
彼女のナレーションは、
とても引き込まれるものがあり、
彼女だとわからないくらいのものもある。
原稿読みのスキルも素晴らしく、
相当な努力をしたのを感じる。

グルメロケで美味しそうに食べる水卜麻美アナウンサーも、
ナレーションが技術が素晴らしく、
誰も水卜アナだと気づかないようなナレーションもある。
え、これ水卜ちゃんなの?と思うような、
キャラクターを演じてもはや誰かわからない難易度の高いナレーションもこなされている。
美味しそうに食べるだけでアナウンサーにはなれない。

しかし、そんな影の努力なんて表には見えない。

こんな泥臭い職業なかなかないと思うほど、
強さがないとできない仕事でもある。
そしていつもニコニコ笑ってるからといって、
いつも楽しく元気なわけではない。
体調が悪い時だって、
それを出さないようにしなければならない。

そして時には私情感情を封印しなければならない。
社会人、アナウンサー2年目の春、
実家で一緒に住んでいた祖母を亡くした。
夕方のニュース番組のお天気コーナーを持たせてもらってすぐだった。
葬儀の日だけはお休みをいただいたが、
どんなに悲しくても、明るく伝えようと、
その時だけは気持ちを切り替える。

本番直前まで大声で怒鳴られることもあった。
それでも悔しさを抑え、
元気よくスポーツ情報を伝える。

自分の中で常にスイッチを持っていた。
オンとオフを切り替える。
これはかなりの強さがなければ難しい。
若い時はできたけど、
今はその切り替えをするのに難しさを感じる。

それから、
すべての人に認められるわけではない。
これはどんな仕事であっても職種であってもいえる。

ただ、ネガティブな自分の評価が
ダイレクトにわかってしまうのも、
この仕事の特徴だ。
しかも不特定多数の見知らぬ人からバッシングを受けたり、
心無い言葉を浴びることもある。
(私はSNSの時代じゃなくてよかった、とつくづく思う。
当時は2ちゃんねるというものが流行っていて、
そこで書かれるアナウンサーはたくさんいた)

それをスルーするなり、
受け止めたとしても、
自分の中で消化できる強さも求められる。

本当に大変なことが多い職種だと思う。
どんな仕事も大変なことはあるが、
かなりの精神力が求められる職種の一つだと私は思っている。

一見華やかそうに見えるのかもしれないが、
その裏で本当に苦しい思いや大変な努力を乗り越えてきていることを、
少しでも理解していただけたらと思い
書いてみた。
正直に自分の本音を。

もちろんすべてのアナウンサーがこの考えを持っているわけではなく
あくまで個人的な価値観だ。

ただ、やはり私は自分から
私はアナウンサーです!
とは言えないところがある。

世の中のアナウンサーというイメージと
本当の自分がとてもかけ離れているように思うからだ。

華やかに思われるかもしれないが、
それ相当の苦労や努力があること、
アナウンサー=自分に自信がある
ではない

ということも知ってほしい。

それでもアナウンサーになりたいですか?
それはなぜ?

改めて掘り下げてみると、
志望動機や
本当の目的が見えてくるかもしれません。

アナウンサーとして成し遂げたいこと、
しっかり向き合って、
それでもなりたい!という気持ちがあるのなら、
それを面接でぶつければきっと伝わると思うのです。

なかなか泥臭い努力が必要な職業だと
私は思っている。
その裏側は、華やかじゃない。
それでいて妬まれやすい。

それでもアナウンサーになりたいですか?




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