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マジック創作に利用できる現象分類法

別の文章で、「マジックの現象分類って簡単なようで実は難しい」という話を書きましたが、マジックを考案するために自分が考えてやっていた現象分類方法についてご紹介したいと思います。

分類を使った発想法

分類方法とは言ってしまいましたが、これは正確には分類法ではないのかもしれません。というのは、すべての現象を決まった数の枠の中に仕分けするという集約的なものではなく、従来ある現象のマジックについて考えつつ、それまでにない新しい現象も考えるためのものだからです。いつまでたっても分類(?)作業が終わることはなく、どんどん広がっていきますので、創作法・発想法といったほうがよいのかもしれません。

というわけで、本稿のメインテーマは、現象分類というより創作手法ということになります。

前置きが多くて申し訳ありませんが……もう一点、これを考えたのは、小道具を使ったマジック(テンヨーの手品道具みたいなものを想像してください)を考えるために考案した方法で、カードマジックやスライハンド技法などを考えるのには適してはいないと思われます。

道具立てとシチュエーションを絵にする

では、説明を始めます。この分類の方法ですが、使っている道具の形と現象がおきている状態に注目します。道具立てと、現象が起きる際のシチュエーションと言い換えてもかまいません。道具立てといっても具体的な「コイン」とか「木箱」とか「トランプケース」などの具体物でなく、球体とか、箱状のもの、のようにできるだけ抽象的な形を想像をします。

具体例として、たとえば最初に「出現」を考えてみましょう。

A4用紙の上部に「1、出現」と仮のナンバーを書きます。

そしてその下には、どんな状態で"物"が出現するということが考えられるかを次々と簡単な模式図のようなイラストを書いて数字を振っていきます。

<上のタイトル部分の写真を参考にご覧ください>

まず、1−1として、空中にボール(仮の物体)が現れた絵を書いてみました。ここでいうボールは"物"を抽象的に表したものです。その横に「空中にものが現れるってどんなマジックかな」ということを考えて、思いつくまま例を書き留めます。四つ玉、カードマニピュレーション、ベアの鳩だし……。四つ玉は、正確には空中ではなく、指の間に現れるので、あとで、違うところに分類したくなるかもしれませんが、とりあえずですので、あまり気にせず書き留めておきましょう。

次に1−2として、別の出現を考えます。板の上にボール(仮の物体)が現れた絵を書いてみます。"鳩ベース"がこれに当たるかななどと、思ったものをメモっておきます。もし何も具体的なマジックが思いつかなれば、そのまま空けておきます。いままでにない類のない新しい現象かもしれません。

ほかにどんなシチュエーションでの出現が考えられるでしょう。いままでに存在するものでも、ないものでもどんどん考えていきます。

現象あれこれ

1−3 口が上方向にあいた容器に出現  コップにコインが飛び込む系  

1−4 口が下に向いて伏せられている容器の下に出現 カップアンドボール

1−5 蓋で密閉された箱の中に出現 クリスタルボックス的なもの、ピラミッドミステリー

1−6 棒状のものにくっついて出現 コインウォンド、マジックセンス

1−7 棒に刺さった状態で出現 横向き ウォンドと指輪

1−8 棒に刺さった状態で出現 垂直

1−9 何重もの容器の中に出現 クインテットボックス

というように、抽象的な形状のイラストをつぎつぎ書き、横に既存のマジックを書いていきます。これをしていくと、思わぬシチュエーション、思わぬ道具立ての現象を考えつくことがあります。

これを消失とか、貫通とか、考えてみたい現象について、記録用紙を変えてそれぞれ行います。

たとえば、上に「2・消失」と上に書いたら、2−1空中で消える 2−2伏せた容器の中で消える、などと分類を増やしていきます。

記録は捨てない

この発想法の超大事なポイントはこの書いた記録を捨てずに取っておくことです。2回目からは、思いついたらここに付け足していくところから思索を始めるようにします。以前は考えつかなかった実施例をあとから思い出すこともありますし、いままでにないシチュエーションを考えつくことがあるかもしれません。

この分類は、"物"の形状を元にして、現象がつぎつぎと広がっていく可能性があるので、集約的なまとめ型の分類というよりも、発散型の分類法と呼んでいいのではないかと思います。

最後に

それぞれの分類の模式図を見るとそれが創作の"とっかかり"になります。考案の道程においてはここまで来ても、まだほんの"とっかかり"にすぎません。ここから仕掛けと演出を考えないといけない。

なあんだ、すぐ手品が考えつくんじゃないのかと思った方には、申し訳ありませんが、しかしただ闇雲にぼんやりと、なにかを考えるのよりは、"とっかかり"でもある方が考えやすいと思います。


【おまけ】

発想の"とっかかり”を得たあと、どうするの? という方のために、もうちょっとだけ、どういう風に考えるかを実際にやってお見せしましょう。例として、実施例があまり思いつかない(なさそう)な『1−8 棒に刺さった状態で出現 垂直で出現』という現象を使って、そこから発想をしてみます。

現象分類18

抽象的な形から、具体的な現象を考えてみます。

 A:手に棒を持っていて、そこにペロペロキャンデー状のものが上部に刺さって現れる。(球体で表していた"物体"をコイン状に想像してみました)

 B:両手で垂直に持ったステッキの中央にシルクが縛られて出現。("棒状"のものをステッキ、現れる物体をシルクとしてみました)

 C:平らな台に棒が立っていて、ハンカチで覆うたびに、棒に玉が突き刺さった状態で増えていく。(棒を台に立ててみました)

などと考えていくと、なにやら新しそうな現象が思いつきます。気になる現象が思いついたら、さらに膨らましてもよいでしょう。

いま書きながら思いついたものですが、Cを使って、「2インザハンド 1インザポケット」的な現象なんてどうでしょう。つまり、台に立った棒に3つの球体が刺さっている。これをハンカチで覆い、中に手を入れてひとつの玉をとってポケットにしまう。ハンカチをとると玉はまた3個になっている。これを繰り返し、最後は全部が消えているとかの別のオチがある、という現象です。

玉増加

さて、この現象を成立させるための機構(タネ)はいったいどんなものになるのでしょう。次はここを考えないとなりません。ハンカチでなく箱で覆うとかいろいろ変えながら、仕掛けを考えます。

もうひとつ、演出も同時に考えはじめます。木製の棒に木製の玉が刺さっているゲームを模したものにしたらどうかとか、3色の玉をさして団子三兄弟とか……

タマ_垂直

こうして、最初の発想に、具体的現象、仕掛けの機構、演出が加わっていきます。なんとなく流れがお分かりいただけましたでしょうか? これ以上やっていると、まだまだ先が長いのでこのへんにしておきます。

マジックの考案は、鉱脈をみつけるために穴を掘っていくことに似ているような気がします。鉱脈にあたりそうな感じの場所をずっと掘っていってもほんとに鉱脈があるかはわかりません。かけた時間がかならず報われるとはわからない穴掘り作業を、何かこの下に埋まっていると信じてずっとおこなっているような気がします。

しかし、天才以外は、こんなふうに時間をかけないと、いままでにない目新しいマジックを継続的に考え続けることはできないと思います。今回、そのために実際行なっていた"とっかかり"を見つけ出す手法のひとつをご紹介しました。では、皆さんも鉱脈にあたりますように、グッドラック!

CM

"使える"セルフワーキングメンタリズム、noteにて公開中。


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