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女王蜂15周年記念単独公演「正正正」~15年のその先へ

4月20日、女王蜂のデビュー15周年を記念した単独公演が開催された。
場所は国立代々木競技場 第一体育館。
私が初めて行ったライブが4年前のNHKホール(3,600席)なので、「12,000席完売」という成長ぶりには恐ろしさすら感じさせる。
もちろん私を含めた観客の熱気は、夏を感じさせる強い日差しに負けないくらい熱い。

そんな気合の入ったライブを、私は前から1桁列目のドセンから見届けてしまった。席が分かった瞬間、笑うしかなかったし、周りも多くが同じ反応だった。これまでもコロナ禍のZeppや犬姫の武道館で舞台に近い席を当てたことはあるし、最高の眺めだったが、今回は文字通り”喰われた”。アヴちゃんをはじめ演者の表情・動きをまざまざと突き付けられ、音楽が自分の身体を覆いつくした。その結果、全てを余すことなく受け止めることはできなかったと思う。

平成ソングが連なった開演前BGMから鐘の音が鳴り、厳かな音楽。「結婚式だ」だが誰と誰の?舞台前の白幕が落ち、「超メモリアル」の衣装を身にまとった女王蜂が登場。大歓声のなか始まったのは「BL」。先ほどの記念日らしい荘厳な雰囲気が、一転して暗黒の結婚式に。アヴちゃんの首元の赤いネックレスがリアルな血に見えた。襟足と衣装でV系な姿のひばりくんが、出だしからパワフルに動く。序盤からかっ飛ばすひばりくんに驚きつつ、今回への気合が感じられた。

続くは「おままごと」。「聞きたい!」という声は挙がってたが、本当にやるとは思ってなかった。当方ヒプマイの知識はゼロだが、原曲はファイルーズあいさんの官能的な声の中に他人に対する冷酷な眼差しが印象的だった。だが今回披露された「おままごと」は、人間たちの社会活動を高い視点から「おままごと」と評すようだった。(実際に本人もそう話しているのを読んだことがある)欲望に渦巻く社会をごっご遊びと称す姿は、同時に他人への不信感と社会への否定を感じさせた。

その孤独へ突き進む姿を増幅させたのが「催眠術」。アルコールを片手に幻想を楽しむ。そんな狂騒的な姿とダンス・チューンが相まって、ジュリ扇の振りも一層華やかになる。
ラストの静寂から雰囲気がガラリと変わり、「犬姫」そして「バイオレンス」。表層的な快楽を抜け出し、肉体を食らい、精神の深みへ。目まぐるしく変わるライティングも武器とし、会場のボルテージもどんどん高まる。「バイオレンス」ラスト、カラスの鳴き声とギターの音色に束の間の清涼感を感じた。

その涼しさもかき消すように「02」に入る。ここで印象的だったのが「お嬢さんおはいんなさい」から始まるフレーズ。この前のツアー(十二次元+01)では原曲通り、大縄を回すなか、純真な子が戦いに勝ち続けなければいけない環境に覚悟を決めていく姿が描かれた。だが今回は早々に大縄を破壊し、足でぐりぐりと踏みつけた。また最後の「任しとき」がなかった。それは自ら戦いに挑むのだけでなく、戦いの場を用意するかのようだった。

戦闘モードの始まりは「PRIDE」から。ここでも観客を煽っていく。堂々と舞台の端から端まで歩き、収録用のカメラにも煽る。ここから「KING BITCH」「DISCO」「油」と、ジュリ扇を止める暇を与えない。みーちゃん・やしちゃんの動きも阿吽の呼吸。会場全体を見ることはできないが、みんな踊り狂っていたと思う。代々木体育館がダンスフロアになった様はさぞかし華麗だっただろう。

「油」では「あのとき言ってた”言葉”はどこへ」と「言葉」という単語を強調していた。どの言葉だろうか。

踊り過ぎて若干疲れを感じさせたところで「ヴィーナス」。アヴちゃんのお着換えタイムと思ったら、まさか観客に歌わせるとは。もちろんひばりくん・やしちゃんがリードしてくれるが、12,000人もいるとそれなりの声量にはなる。ひばりくんの優しい歌声を堪能しつつ、全体的にキー高めのヴィーナスに息切れしながら(みんな辛くないの・・?)、歌い続ける。観客みんなでヴィーナスの再登場に今かと焦がれていた。
ギターソロ後に再登場したアヴちゃんは、トップがキラキラの黒、下は華やかな緑のフリルが特徴的なバッスルスタイルのドレス。マイクを手に観客から歌い継ぐ。
「そう 総ては初めから”私次第”だ」

ここで誰かの物語ではなく、アヴちゃんと女王蜂の物語をずっと語っていたのではと気付いた。
「メフィスト」で憧れを超えて、豊かな才能を爆発させる。才能が大きく花開いたところで「十二次元」で”位置を確かめ”、可愛いおばあちゃんに「なるのっ!」と叫び、新たな境地へ。カウントに合わせてセットの竹が1本ずつ倒れていく。しっかり成長した竹が倒されるのは、今まで積み上げたものを一回刈り取ってやり直すようだった。(恐らく全て倒れる演出だっただろうが、残念ながら数本残ってしまった。)

カウントが15に達した時、「01」の穏やかなイントロが鳴り響く。私はこの曲を「新たなスタートをきる曲」だと思ってる。過去に起こったこと、つまり「BL」や「おままごと」で描いた姿を全て無きものにするのではなく、自身を構成する糧としていき、音楽を1つの表現方法として自分の存在意義を見出していく。竹は根から取らない限り、また成長していく。その表現者としての覚悟が「黒幕」につながる。誰かのためでなく、自分のため。人々の負の感情をも渦巻く社会のなかで、自分の翼で羽ばたいていくため、音楽の道を選んだ。

続く「つづら折り」でアヴちゃんはこう歌った。
「誰からも愛されてやまない女の子に・・・誰にでも認めさせてみせる男の子になりたかった」
これまでオク上で叫ぶように「女の子になりたかった」と歌ったことはあったが、今回のように途切れたのを聞くのは初めてだった。演出なのか、感情の高鳴りなのかは本人たちにしか分からない。私の目からは何か堪えるような表情に見えた。後ろで響くドラムの音が心臓の鼓動のようだった。フリルのバッスルを外してギュッと握りしめながらミニドレス姿で歌う姿は、自分を装ってくれる物を大事にしながら同時に”生身の一人の人間である”ことをまざまざと私に突き付けた。
アヴちゃんが自身の性別について過去何を感じ、何を思ってこの歌詞をつづったかは、私の想像を超えた葛藤や苦しみがあるだろう。どのようにそこに折り合いをつけたかは永遠に分からない。だがこの時ほとばしった感情の中に、本気で自分と向き合い、考えてきた姿を垣間見たし、カタルシスを感じた。そんなアヴちゃんの”考え続けてきた姿”は最後まで舞台に顕在していたと思う。

楽器隊が一時退場し、アカペラで「Introduction」。先ほど”「BL」や「おままごと」で描いた姿を糧にした”と書いたが、それがここにも表れている。
「世の中だなんて安い手品に拍手はしたくない」
「おままごとはもうおしまい」
社会に迎合せず、我が道を突進する姿を否定はしていない。稼ぐことも美味しいものを食べることも悪いこととしていない。ただ自分が行きたい道への手綱を自分自身が持つ。「どんな時でも〜」からのフレーズは、自分に言い聞かせているようでもあり、定めた目的地への出発の宣言をしているようでもあった。

この宣言のあとの「HALF」「火炎」は本当に美しくカッコよかった。社会のラベリングと時に戦いながら、自分たちの足で自分たちの道を突き進む。女王蜂の美しさのもとだと思う。

ここから一直線にクライマックスへ。ライティングが一気に華やかになる。再録された「IMITATION」は、前よりもポップで軽快な楽曲に。みーちゃんの、鍵盤の上を転がるようなメロディが耳に残る。そして英語歌詞が、英語の発音になる。(タイトルもカタカナから英語へ)洗練された楽曲になりながらも、蛇姫様時の熱は確かに存在している。

後ろからミラーボールが登場し、「超メモリアル」に。これぞ女王蜂!と言わせるような、色彩豊かな舞台と華やかなダンス・チューン、そして過去の姿を笑顔で迎え入れ、新たな門出を祝祭する歌詞。アヴちゃんとやしちゃんの息の合ったサイドステップには、15年超えの絆も感じさせる。たくさんのジュリ扇も祝祭に舞う。ラストはマイクを勢いよく床にたたきつけた。

最後は全員で一礼し、楽器隊は先に捌け、アヴちゃんだけが舞台上に残る。客席の端から端まで見渡したのち、少し俯いて2言何かをつぶやいたが、聞き取れはしなかった。(爆音の影響)さっと後ろを振り向き、悠然と去って行くかと思いきや、左にあった棒の先を勢いよく押した。昇降機でゆっくりと上がっていく。上がった先で静寂を待っていたが、声が収まらず、振り向いて「まだまだやるわよ!」と客席に叫ぶとサッと捌けた。この公演をも上を目指す階段の1つでしかなく、新たな始まりを予期させる終わり方がった。終演後BGMの結婚行進曲がその思いを後押しさせた。

最後に歓声が収まらなかった話だけしよう。前から演者が静寂の演出をしても、観客の歓声(声掛け)がそれを損なう話がSNSで散見されている。特に前回のツアーで顕著に出てきたが、ほぼ同じ頃歌舞伎座でも的を外れた大向うのをよく耳にした。
演者への歓声は舞台演出の1つだと私は思っている。演者がここぞという時に観客を煽り、観客がそれに答える。劇場全体が一体となって、作品を盛り上げる効果がある。
だがそれは演者と観客が互いを信頼しているうえで成立するもの。問いかけもその答えも決まっているからだ。それに対して自分の欲望で叫ぶことは、舞台の世界に土足で入り込むようなものだと私は思っている。観客は演者に必ず答えるが、演者が観客に答えるかは演者が決めるものであり、観客の言いなりには決してならない。

コロナ禍での声出し禁止は、演者にとって静寂の演出がしやすい環境だったんだと気づきつつ、今後それを懐かしむことがないことを祈るしかないのかなと思ってます。


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