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CODE VERSION 2.0 - Lawrence Lessig

LL.M.留学中に課題として英語で(四苦八苦しながら、かつ一部だけを)読んだこちらの本を、ルールメイキングについて学ぶ者として理解を深めたいと思い、改めて日本語版を買って読みましたので、概要と考えたことをまとめたいと思います。(読書メモを公開しているような形になっています。)

著者のレッシグ教授は米国の憲法学者・サイバー法学者として著名な方で、本書も名著と名高い書籍です。本書はインターネットにおける規制のあり方について論じているもの、今の時代におけるルールメイキング、ルールデザイン、サービスデザインを考える上で必読と思える書籍でした。



本書の内容

本書で語られる主題は4つです。サイバー空間における以下の要素。これらを通じてインターネット・サイバー空間における規制について論じられています。
(1)規制可能性
(2)コードによる規制
(3)隠れたあいまいさ
(4)統合する主権

(1) 規制可能性

ポイントは「誰が」「どこで」「何をした」が捕捉できるかどうか。いずれもインターネット黎明期は捕捉することが困難であったが、技術が向上するにつれて捕捉できるようになっており、規則可能性はかなり高まっている。

これは政府が規制を強めることを主目的としたものではなく、商業的な理由(ネットショッピングの効率化、ターゲティング広告の精度向上等)が寄与したものであるが、間接的には政府による規制を容易にしてきた。(なお、技術的に規制をするのが難しい段階では、政府は同定技術の向上を促す政策を選んできた。)

また個人の活動をそのまま規制するのは拒否反応が強く示されるために困難を伴うことも多いが、中間段階を規制するのは比較的容易。中間段階を規制するというのは個人を直接規制するのではなく、個人にサービス提供をする企業を規制するということ。少数の有力企業がこの地位を占めるようになれば規制は容易になる。

今後もよりインターネット上の規則可能性も高まり、最終的にはなくなるだろうと考えられる。

(2) コードによる規制

人の行動は4つの要素によって制限をされる。
(1) 規制(Rule)
(2) 規範(Norm)
(3) 市場(Market)
(4) アーキテクチャ(Archtecture ≒ Code)

(1) 規制の典型例は法令。議会が法律を、政府が政令等を出すことでいわゆるルールを作り、そのルールの違反者には罰則を与えることで人がルール違反をすることを抑制する。

(2) 規範は人々が社会的に許されない行動を避けることを指す。ルールが明文化されていなくとも「常識的にそれはまずいだろう」というものがこれに含まれる。

(3) 市場は金銭的インセンティブによって人々の行動が変容することを指す。物やサービスを購入する際に同レベルの品質のものであれば価格のより安い方を選ぶ、といった行動が典型例。

(4) アーキテクチャとは仕組みとして利用者の選択肢をそもそも制限することを指す。分かり易い例でいえば、何かの申込をWebサイトから行う場合に、必須項目を入力しないと次の画面に進めない、といったシステム仕様によって人の行動は制限される。

人の行動を変容させようとする場合、この4要素を考慮して方策を検討することが望ましい。特にITシステムが普及している昨今ではアーキテクチャの重要性が増している。

政府(議会)が作る(1)規制は直接的に行動を規制する場合もあるし(罰則を与えるなど)、教育に影響を及ぼして規範を変えようと試みるケース((2)規範アプローチ))、補助金支給などにより金銭的インセンティブを与えて行動変容を促すケース((3)市場アプローチ)、特定企業に一定の仕組み作りを強制するケース((4)アーキテクチャによるアプローチ)のように、他の要素を使って人の行動をコントロールしようとすることもある。

(3) 隠れた曖昧さ

政府による盗聴技術を用いた捜査、インターネットにおける複製に対する著作権の扱い等、法が制定時に想定していた範囲を超えるとき、法文の解釈で対応できないのではないかという範囲が生まれてきた。これに対して法の本来の趣旨に立ち返ってあるべき規制を”解釈から”成立させようとしてきた。

インターネットが普及するにつれて、著作権にしろプライバシー保護にしろ言論の自由にしろ、それらの情報に対して”誰が” "どこまでの"コントロールをすべきか、という点が議論になってきている。特にこれまでの政府がルールを決めてそれに従わせる中央集権的な仕組みが有効な範囲は、徐々に縮小している。

(4) 統合する主権

これまでは国ごとの異なる規制があり、それは地理的に分かれているという理由から、衝突を生むことはそれほど多くはなかった。インターネットの発達によりサイバー空間で国境を跨ぐことが容易になり、各国の”主権”が干渉し合い、対立する場面が生まれてくるようになった。

しかしこれもジオブロッキングのように、サイバー空間のサービス提供者が利用者のアクセス元を判別してそれに応じたサービス提供をすることができるようになると、技術的には解決される。つまりサイバー空間であっても地理的な意味での国境が復活する。法がその影響を及ぼす範囲は依然として残るということになる。

(5)対応

法を含む規制について、裁判所は(特に米国のようにCase Lawの国におけるそれは)既存の法令に基づき、規制の曖昧さを補完する機能を持つ。アーキテクチャ(コード)に対しては、議会がコードを作る中間段階にある者(典型的にはサービス提供者)を規制することで一定の影響力を及ぼすことができる。

加えて技術向上によって全ての個人の活動がモニタリングできるようになると、それに対する抑止力が必要となるが、これに大きな役割を果たすのが民主主義。

読書メモ

以上が書籍の内容を簡単にまとめたメモですが、以下では私が読みながら考えたことをメモしたいと思います。

この書籍が発刊されたのは2007年で、私が読んでいるのは2023年ですがが、現在議論されているAI関連規制の枠組みの作り方についても、参考になる考え方が多くある本だと感じます。

例えば、日本政府が検討している認証機関の認証を得ることを求めるのは、認証を得ていれば市場での信頼獲得につながるという点で、市場的働きかけ(一部は規範的働きかけ)とも言えるだろうし、生成AIの事前学習や追加学習における規制は直接的に抑止することが難しいという点で初期のインターネットにおけるルール作りと似ているところがあると言えます。

また、レッシグ教授が提示する4つの要素の活用のメリット・デメリットを整理しておくことで、どの要素を活用するか=どのような手段を選ぶべきか、の検討に役立たせることができるだろうと思います。

例えば(1)規制アプローチは、作るまでに一定の時間が必要となる一方で、執行力さえあれば強制力が強い、ということが言えます。(EUはちょっと話が違うかもしれない。彼らは規制を目標的に位置づけて、後から遵守することも認めているので。)

(2)規範アプローチは、(1)規制アプローチ以上に作り上げるまでに時間がかかりますが、その分強固で簡単には覆りません。さらには定着してしまえばそもそも覆すという論調が起きづらい=議論の対象にしづらい部分もあります。ただ規範は国というよりはコミュニティにおいて醸成されるもので、行動制約の対象範囲が地理的な国境とは異なる範囲になることは注意が必要かもしれません。

(3)市場アプローチは比較的導入がしやすいものです。また対象者が自ら行動を決定しているという性格が強いので、強制されている感覚が少ないかもしれない。その分、強制力は低くなると思われる。

(4)アーキテクチャによるアプローチは、コードを作ることも容易で対象者がコントロールされている実感もなく行動制約を行うことができます。その一方で、影響範囲がその「コード」の範囲に留まるので、一ベンダー、一システムの範囲を超えてそのルールを適用することは難しいかもしれません。寡占企業であれば別かもしれませんが。

ということでこのフレームワークを頭において、ルールデザインをしていくのも面白いのではないかと考えています。思考実験的にいろいろなルール、大手企業のサービスなどを考えてみると更なる学びがありそうです。

終わりに

特に最後は読書メモということで読みながら考えたことをつらつらと書いただけになってしまいましたが、お読み頂きましてありがとうございました。

(この投稿を書けたので、なんとか毎月投稿が継続できて一安心。。。)


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