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銀行との仁義なき戦い

数年前の話。ぼくの顧問先である、不動産業を営むKさんのところに、取引銀行であるA銀行から借り換えの話があった。KさんはA銀行に1億円、B銀行に1億円✕3本、3億円の借入金があったのだが、A銀行はB銀行の3億円もA銀行に変えさせようとしていたのだ。

「なんでもね、A銀行さんが言うには、借り換えのとき一時的に出費があるけど、金利が安くなるから長い目で見れば得だって」

Kさんは嬉しそうにそう話した。

「で、なんて答えたんですか?」

念の為、Kさんに確認してみる。

「え?安くなるのならそれでお願いしますって言ったけど、ダメだったかしら?」

Kさんは驚いたようにそう返事をした。

通常、不動産経営のためアパートなどを建てるときに借りる金利は固定金利だ。銀行としては多額でしかも長期に渡って返済してくれるのだから、金利は固定してあげますよ、ってことだ。

つまり、将来に渡っての利息収入が約束されているからこその低金利なのだから、それを借り換えのために一括返済するとなると違約金が発生する。それがA銀行の言う一時的な出費だった。それだけではない。通常、アパートもその敷地も抵当に入っているので、それを解除し、新たに設定するときも担保設定手数料が発生する。2つ合わせれば、数百万の出費だ。

「3本とも借り換えるって言っちゃったんですか?」

「ええ。でも1本は手続き済みだけど、2本はまだよ」

よかった。まだワンナウトだ。スリーアウトだったらたまったもんじゃない。

「とりあえず、残りの2本は保留にしてください。B銀行に金利を下げるように交渉します」

ぼくはそう言ってすぐにB銀行の担当者に連絡をした。担当者はすぐに飛んできた。

「当銀行といたしましては、ここまで金利を下げます」

そう言ってB銀行が提示した金利はA銀行より低い金利だった。しかも、同じ銀行内での借り換えのため、担保設定手数料はかからない。(借入時の契約があるため違約金は発生したが)それだけでも百数十万は節約できた。

数日後、A銀行の担当者からぼくのところに電話が来た。

「こんな後出しジャンケンのような真似をして、卑怯だとは思わないのか!?」

まさか初対面の人間から卑怯者呼ばわりされるとは思わなかったが、彼の立場を考えれば仕方ないのかもしれない。

「申し訳ありませんが、卑怯と思われようが目の前で顧客が損をするのを担当会計事務所として黙ってみてられませんよ」

そう言ってぼくは電話を切った。電話の向こうで担当者が苦虫を噛み潰したような顔をしているのが目に浮かんだ。

さらにその後、A銀行担当者の上司という人間から、ぼくの上司あてに電話が来た。

「部下が失礼な態度をとりました。当銀行としましては、今後このことでなにか言うつもりはありません」

まあ、1億はA銀行に移ったのだから担当者としてもA銀行としてもダメージは少ないのじゃないだろうか?

銀行の事情はさっぱりわからないけど、半沢直樹みたいな世界を垣間見た気がした。


当時、まだ半沢直樹は放映されてなかったけど。

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