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1ダースの恋 Vol.6

「あの…大丈夫? あの~!」

 

「え? え? あぁ すいません!」

 

「怪我無い?」

 

「ないけど…」

 

「ないけど なに?」

 

このタイミングで お手洗いを済ませたかれんが 亜美の異変を嗅ぎ付けて 駆け寄った。

 

「どうしたの 亜美?」

 

「ぶつかっちゃって…ただ…」

 

「すいません…」

 

かれんが『彼』を見た。

 

「え…いつ」

 

かれんは 亜美に 口を塞がれた。

 

「いやね…知り合いに似てたから。」

 

「そうなんだ…あの…お姉さんに 言いたい事があるんだけど…」

 

「なんですか?」

 

亜美は ぼんやりしていて 気構えせずに 聞いてしまった。

 

「お姉さんの事が好きになってしまいました! この後 時間ありませんか?」

 

亜美は 度肝を抜かれて かれんに もたれ掛かってしまった。

 

名前も知らない『樹』に 似た『彼』からの 突然の告白。

 

昂らない方が むしろ『異常』な状況下で ドラマチックな展開を 浴びてしまったのだ。

 

立っていることは 難しかった。

 

「亜美…どうしたいの?」

 

「どうしたいって…」

 

「お願いします!」

 

『彼』は 本気で頭を下げている。

 

それだけは 亜美と かれんは 理解した。

 

「行くだけ行ってみたらいいじゃないの!」

 

かれんは とりあえず どうなるかは 別として 亜美は きっと 行きたいのではないかと 考えていた。

 

「そうだよね…ご飯だったら。」

 

不覚にも『元カレ』の影を想わせる『彼』を 知りたいと 思ってしまった。

 

「いいんですか?」

 

嬉しそうなキラキラ笑顔を 向けてくる『彼』から 恥ずかしいのに亜美は 目線を外せなかった。

 

「ヘタなことだけは しないことを約束出来るならね。」

 

かれんが『抑制』をしてくれた。

 

それもまた かれんの優しさだった。

 

「ご飯食べながら お話をしたら 必ず 家に 送る!」

 

「男に二言は無いね?」

 

かれんは『彼』の瞳の奥を見た。

 

(そこまで 節操のないタイプではなさそうね…)

 

「もちろん!」

 

「なら いってよし!」

 

かれんは『Goサイン』を 出した。

 

「二人で 話を進めないでよぉ…」

 

置いていかれていた亜美が ようやく 混じる。

 

「亜美 ここは 私が出しておくから 早く 行きなさい!」

 

「ちょっとぉ!」

 

戸惑いながらも「彼」について行こうとした亜美の腕を 一瞬 かれんが引き留める。

バランスを崩した亜美の肩を支えながら

 
耳元で かれんは亜美に 一声をかけた。

 

「リベンジのチャンスかもしれないよ 亜美!」

 

少し驚いた表情をする亜美の背中を 今度は無理矢理に押しだしたかれん。

 

微かな戸惑いと隠し切れない喜びを亜美の足運びに認めた かれんは、

 

(どうするかは…亜美 あなたが 決めなさい。)

 

と心の中で 亜美を送り出した。

 

「後で 連絡するね かれん!」

 

きっと かれんも『彼』が『樹』に似ていることを 勘づいている。

 

だから『リベンジ』と言ったのだろうとは 容易に 予想出来てしまった。

 

「いこうか 亜美さん!」

 

歩き始めた『彼』の後ろをついていく。

 

亜美は 1番の疑問を 聞いていなかった。

 

「そういえば…あなたは 何さんなの?」

 

目を見て 話し掛けられなかった。

 

「…そうだった! すっかり 忘れてた! 俺は『高崎 光(たかさき ひかる)』です!」

 

「光くんね…よろしく。」

 

亜美の心には『安堵』と『残念』が 交差している。

 

考えてるまでもなく『樹』であるわけがないのに どこかで 求めてしまっていた自分に 気付く 亜美。

 

(私って やっぱり まだ 樹のことを…)

 

そんなことを 考えていると 光が 話し掛けてきた。

 

「今日は お気に入りの『居場所』に 連れていっていい?」

 

「任せるよ。 どんな お店なの?」

 

「それは 着いてからの お楽しみで。」

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