西原ゼミ(2023-08-21)

【リスキリング超入門 DXより重要なビジネスパーソンの「戦略的学び直し」】

徳岡晃一郎氏 房広治氏
www.amazon.co.jp/dp/B0BVDL8P66

残念ながら日本はいつの間にか「学ばない国」になっている。GDP比で見た人材投資(OJT以外)の国際比較では、その比率が年々低下している。社外学習や自己啓発を行っていない人の割合も目を覆うものがある。日本企業の人への投資が減少しているばかりか、個人としても生活や習慣のパターンの中に、学びが位置づけられていない。OECD(経済協力開発機構)による「高等教育機関への30歳以上の入学者の割合(MBAなどの大学院レベルの教育を受ける人の割合)」について、日本は27カ国中で下から7番目。12.9%という割合は、27カ国の平均26.3%に遠く及ばない。

「学ばない」ことがビジネスパーソンの習慣として定着した結果、個人の現場のスキルだけではなく、企業全体や社会全体の経営力やリーダーシップが弱まっている。人材教育への投資や人件費が削減され、一方では給料が上がらず自分への教育にかけるお金や関心がない、その結果イノベーションは生まれず、企業は収益性が低下する中でさらに人材に対する支出を抑える・・・こうした悪循環によって、勝ち組と負け組が生まれる構造ができあがった。
年齢を重ねると共に出世したいと考える人の割合が急激に低下し、逆に出世をしたくない人の割合が高まる。 この2つが交差するのが42.5歳。つまり多くの人が40代前半で出世を諦めてしまう。同じような傾向がキャリアの終わりに関する意識にも表れており、「自分のキャリアはもうこれで終わりだ」と考える人の割合と、「自分のキャリアはまだまだ伸びる」と思う人の割合は45.5歳で反転している。

「粘土層」を形成し組織の沈滞化を招いている(出世したくない上にキャリアも伸びないと思っている人たちが居座り、成長したいという意欲のある人を抑えつけてしまっているダイナミックな組織になるのを妨げる重しとなっている)

だからこそ、「リスキリング」が必要なのだ、と著者はいう。 リスキリングの目的は、日本の企業やあらゆる組織が世界の中で力を発揮できるようにすること。 日本の強みを生かすこと、ビジネスパーソンが選択肢を増やしながら人生を全うできる力をつけてもらうこと。 またリスキリングとは生涯にわたって知識を創造し続ける「終身知創」のため、自分の成長や興味の変遷に伴って、自分の中でも力点が変化する。

現在、リスキリングという言葉はとりわけデジタル化に向けた再教育という意味で使われているが、大切なのはその先に何を目指すのかという視点。本当に身につけるべきなのは、デジタル社会の進展を活用していく力である。未来を見通し、そこからバックキャスト(未来像を描き、その未来を実現するための道筋)してどのように自分のスキルを広げていくのかを考えることが重要。 何を学ぶのか、どのような目的達成のために学ぶのか、というリスキリングの視座を持ち、新たなスキルを学び続けたい。

※「リスキリング」「リカレント」「越境学習」の違い。

・「リスキリング」は社内の業務に必要な知識やスキルを持たない従業員に対して行われるもので、従業員は会社で働きながら新しいスキルを学ぶ。主に会社が主導して従業員に行う教育でもある。ただし企業主導といっても、企業が強制的に学ばせるのではなく、あくまで「個人が自身のキャリアを切り開くために、必要な学習を自発的に行う」ことが前提。

・「リカレント」は学び直しのこと。現在の会社を休職もしくは退職してから、大学やビジネススクールなどの教育機関に通って勉強するなどのケース。さらに、教育機関で新しいスキルを身につけたあとには、一時的に休職していた会社に戻ったり、新しい会社に入ったりして働く。リカレントは「生涯学習」とも言いかえられる。生涯学習とは、仕事に必要なスキルを学ぶだけでなく豊かな人生を送るため常に幅広い分野の事柄を学んでいく。学校での教育、スポーツ、文化的な活動、ボランティア活動から趣味に関する学びなど、生涯にわたってさまざまな分野の学習を続けることが生涯学習とされている。

・「越境学習」は、普段勤務している会社や職場を離れ、まったく異なる環境に身を置き働く体験をすることから新たな視点などを得る学びのこと。 他社留学、社外留学とも呼ばれる。越境学習は、ビジネスパーソンが所属する組織の枠を越え(“越境”して)学ぶことであり、「知の探索」によるイノベーションや、自己の価値観や想いを再確認する内省の効果が期待されている。

【本田宗一郎 夢を追い続けた知的バーバリアン】野中 郁次郎氏

www.amazon.co.jp/dp/4569834272

・皆さんには野中郁次郎名誉教授の提唱する「知的バーバリアン」になっていただきたい。バーバリアンとは、野蛮人とか未開人といった意味ですから、知的なことを貪欲にガツガツと求め続け、戦い抜いていただきたい。

・VUCAの時代は、今までになかったリスクが顕在化し、未来の予想すらも難しいような「荒野」です。このような環境を、知性を働かせた上で、バーバリアンのように野性味を持って乗り越えていこう。

・「知的バーバリアン」のイメージとしては、歴史上の人物では福沢諭吉、北里柴三郎、渋沢栄一といった人の名前を挙げることができます。もっと時代が下ると本田宗一郎や井深大、盛田昭夫、立石一真など。前者は江戸時代から明治時代に日本が急激に変化していく中で、新しい時代をどのように切り拓いていくのか大きな志を持って取り組んだ人物で、後者は戦後の混乱期に登場し、日本の高度経済成長を引っ張った人物である。

・単なるリスキリングの前に、未来の社会、その構成要素としてのよい企業・よい組織・よい仕事を創る志こそ重要。 どちらも時代が変化する時に、未来を志向して理念を掲げ、そこに向けて意志の力と実行力を働かせた人たちだと言える。

・国や国民が貧しかったとき、多くの日本人はガツガツと働き、学んだ。しかし、豊かになった今、その気迫は失われ、ガツガツする人は少なくなり、むしろそういう姿はカッコ悪いとさえ思われている。今一度、野生を取り戻し、「知的バーバリアン」を目指したい。

【2035 10年後のニッポン ホリエモンの未来予測大全】堀江貴文氏

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・テクノロジーの進化はすさまじい。それは私たちのビジネス、ライフスタイル、価値観、そのすべてをどんどん更新していく。特に生成AI(人工知能)の進化には目を見張るものがある。 先日、広島で開催されたG7サミット(主要国首脳会議)では生成AIの利活用をめぐり、その推進派と規制派とで意見が割れた。そういうものだ。革命的なテクノロジーが生まれると、ひととき世界は混乱する。そしてやがて受け入れられていくのである。テクノロジーにはあらがえない。

・AIはいまシンギュラリティに達しつつある。人類の知能をいよいよ人工知能が超えるのだ。 私たちは人類史に残る転換点に立っている。世界は拡張し、爆発し、あらたな次元を切り開く。これからの激変に適応できない人は生き残れない。それは事実である。世界が変わるようにあなたも変わらなくてはいけない。

・21世紀のいま、ついに本物の“ドラえもん"が現れた。あんなことも、こんなことも、ふしぎなポッケで叶えてくれるドラえもん。その実の名を「ChatGPT」と呼ぶ。こちらのあらゆる質問、要望に博覧強記の知識で応じてくれる。あんなこと、こんなこと、なんでもこいなのだ。文法を知らなくても私たちは日本語を操れる。 GPTもそうだ。 GPTが生成する言語は、文法に基づくものではない。私たち人間と同じく、自然言語の大量インプットを経て、そこから妥当と判断される自然言語を再構成している。つまりGPTは表面上だけ人間に似せているのではない。その内面、メカニズムも人間のそれと一緒なのだ。

・本書には、10年後の未来について、次のようなことが書いてある(抜粋)。
AIが子どもと老人を支える /円安は続き・円安が起爆剤になる /年金は絶対に破綻しない /働き先として除外される日本/沖縄はハワイになれる /オフラインが最強という新常識 /“マッチングアプリ婚”が王道になる /老人の定義が変わる(75歳以上に) /寄生虫が和食を脅かす(アニサキス) /スタートアップに人が流れる /自動車界の日本包囲網が加速する(ガラケーで起きた惨劇が繰り返される) /「人工の太陽」がいよいよ稼働する(核融合炉の実用化) /通信の破壊的革命(宇宙開発・人工衛星)

・今までの常識が次々と覆される未来。 生き残るためにいくつになっても、勉強が必要だ。

※2022年10月、EU(欧州連合)は内燃機関車(ガソリン車)の販売を2035年以降禁止することで合意。環境問題に配慮した脱炭素化を目指す。それが規制にあたってのEUの言い分だ。でもあくまで表向きの口実にすぎない。実態は明らかな「トヨタ潰し」である。HVやPHVの製造は、トヨタをはじめ日本の自動車メーカーが得意としている。その技術、クオリティにおいて海外メーカーの追随を許さない。世界の自動車業界にとってゲームチェンジャーであり、今後本格的に普及していくEV(電気自動車)。だが、世界一の自動車メーカー・トヨタは完全に出遅れてしまった。

・「2030年までに30車種のEVを投入」という骨太の戦略方針が発表されたのは2021年。2023年4月にトヨタ新社長に就任した佐藤恒治氏は「従来とは異なるアプローチで、電気自動車の開発を加速していく」と表明した。 果たしてトヨタはここからEV市場を席巻できるのか。

・現在のEV開発ではガソリン車やHVとは大きく異なるノウハウが求められる。その代表格がICT(情報通信技術)だ。テスラやBYDが製造しているEVは常時インターネ ットに接続されるコネクテッドカーとして、従来の自動車にはなかった画期的なスペックを獲得している。 わかりやすく喩えるなら“走るスマートフォン”なのだ。 スマホは端末を替えずともそのOSがアップデートされることで新しい機能が加わる。それと同じような技術がEVにも持ち込まれている。

・堀江貴文氏は「現在の自動車メーカーを取り巻く環境は、ひと昔前の携帯電話メーカーのそれと重なって見える」という。ガラケーの短小軽薄というスペックを極限まで追求し、多くの国内メーカーで競ったあのガラパゴス化の状態が今の日本の自動車業界だというのだ。 その後、iPhoneが登場し、国内の電話メーカーは一掃されてしまった。これは、直近の日本の家電メーカー業界とも似ている。日本の未来のため、トヨタに起死回生の策があると信じたい。

【ジーニアスファインダー 自分だけの才能の見つけ方】山口揚平氏

www.amazon.co.jp/dp/4815607923

・今後の日本で注力すべきテーマは次の3つになる、と考えている。1つはロボティクス、次は医療システム、最後にコミュニティインフラの確立である。

①ロボティクス
現在欧米で隆盛を極めているGAFAのような産業は、1人が作りだすものである。むしろ日本はこれまで擦り合わせの文化の中で、言語化されない知恵を持ち寄り、他の国が真似できないクオリティを担保してきたことを忘れてはならない。ロボティクスも擦り合わせが必要な産業(サプライチェーンが長く、日本人が得意とするバケツリレーで作らなくてはならないから)。ロボティクスはまだコモディティ化されていない、未熟な市場であり、高付加価値産業である。今後多くの企業が統合されていき、ビルや高速道路などのメンテナンス、警備や介護にも使われていく。ロボティクスのサプライチェーンの長さは自動車産業同様に、今後の日本人全体の雇用を吸収することにつながる。

②医療と健康
日本全体の売上を立てるのがロボティクスだとすると、日本国内のコストを削減するのが医療システムの改革。世界で最も高齢化が進んでいる日本では、社会保障費は、国家予算の3割を占めるまでに至っている。しかも、このままでは今後さらに膨大なコストがかかり続けることが予想されている。医療においては「病気以前」「病気になってから」「健康寿命が終わってから死による寿命の終わりまで」の3つの分野でのイノベーションが可能だと思っている。対策としては、たとえば「DNA解析」や、「ライフログデバイスを使った統計学的アプローチ」、「新しい健康保険組合の創設」「代替医療」、「再生医療」等々の分野も進化させるべき。

③コミュニティインフラ
この国を1つのコミュニティ(ソサエティ)でとらえるのは、すでに限界を迎えている。今後は国をそれぞれの地域コミュニティに分解していくことが重要になってくる。新たな産業も生まれてくるだろう。

・自家用車の平均稼働率は4.2%だと言われている。 ほとんどが、通勤や買い物などに短時間だけ使われ、あとは駐車場で眠っているからだ。 自動運転が進み、ロボットタクシーへの転換が進めば、トラックなどの物流の車両を除けば、理論的に言うなら、自家用車の生産量は95%減ってしまうということになる。 今後、自動車産業に変わる「ロボティクス」の市場への転換は急務だ。

【堀江貴文のChatGPT大全】堀江貴文氏

www.amazon.co.jp/dp/4344041593

・ChatGPTの登場により、ホワイトカラーの仕事が9割なくなる可能性がある。ChatGPTのようなAIは、人間が普通に行っている事務作業やコンサルの資料作成、初級プログラミングといったタスクを数分で終えることが可能だからだ。 これにより、それらの作業を担当しているホワイトカラーの仕事は大幅に減るだろう。

・例えば、ロケット開発の現場でもChatGPTは使える。製造業には膨大なドキュメントが必要だが、下書き程度であればChatGPTはもう十分に使えるレベルなのだ。パイプを流れる液体酸素の量や複雑な数式まで出してくれる。悲観的に捉える必要はない。単純作業やルーチンワークがAIに取って代わられることで、我々ヒトは、よりクリエイティブな仕事や高度な意思決定に時間を割くことができるのだ。

・その新たな時代の中でChatGPTを色々と使いながら興味深く見ているのだが、現状では国内で600万アカウント (2023年6月時点) を超えた程度しか普及していないらしい。LINEのアカウント数9500万と比較すると、いかにまだChatGPTを一部のアーリーアダプターだけしか使っていないかということがわかるだろう。今回もまたChatGPTが社会に大きなインパクトを与えるのにはまだ時間がかかる。

・世の人々の多くはまだ、AIが一瞬で片付けられるような仕事に、何日も何週間もかけて必死になって取り組んでいるが、我々の世界は少しずつ、でも確実にAIの時代へと移行している。 その変化に対応するためには、我々は自分たち自身の生き方を変える必要がある。それが5年後に来るのか、10年後に来るのか、 具体的にはわからないけれども、一つ確かなことは、我々が自身の利益を最大化する生き方を模索するのであれば、可能な限り早くその変化に適応し、新たな波に乗るべきである。

※アメリカでは「プロンプトエンジニア」という職業が 注目されています。 これは、ChatGPTなどの自然言語で利用できるAIに指示を出し、成果物を生み出す人たちのこと。数人分の仕事をこなすプロンプト・エンジニアには5000万円払った方がいいという考えも生まれている。日本でも、この動きが一定数出てくる。僕の知り合いのエンジニアは、ChatGPTを使うことでプログラマーの生産性が5倍から6倍になると言っている。

※ChatGPTはアメリカの医師国家試験でも日本の医師国家試験でも合格レベルだったと報告されている。そもそも医師は「機械学習」 のように作られていく。大学で6年間知識を学び国家試験を受け、そこから研修してさらに学んでいく。これからChatGPTも医療領域でさらに学習が進み、今のレベルからこれから 数年で圧倒的な性能になっていくと考えている。だから今、医師の本質的な役割とは何か? という議論が出てきています。

診察をして患者さんのデータを取る部分は、まだ今は医師の行うこと。「診断や治療方針を決める」のも医師法で医師しかできないと定められているが、「診断や治療方針を考えること」は人間よりもAIの方が得意になっていく。ChatGPTの先には医師がいなくなる未来があると考えている。

ChatGPTの未来は、医師だけでなく、すべての「士業」(弁護士、会計士、行政書士、社労士)にも言える。なぜなら、これら士業の業務の多くは、医師と同じ「相談」(診断や対策)だからだ。

【Amazon創業者ジェフ・ベゾスのお金を生み出す伝え方】カーマイン・ガロ氏

www.amazon.co.jp/dp/4866516429

・2004年の夏、ジェフ・ベゾスCEOは驚くべき決断をくだして、アマゾンのリーダーシップチ ームに衝撃を与えた。 パワーポイントの使用を禁止したのだ。 アマゾンの経営陣は、ビジュアルにうったえるスライドや箇条書き機能の代わりに、文書やナラティブ(ストーリー仕立ての文章)の形でアイデアを説明し、売りこまなければならなくなった。

・新たなシステムによって、アマゾンの全社員が、シンプルな言葉、短い文章、そして明快な説明でアイデアを他者と共有するよう強いられることになった。 だが、ベゾスが導入したこのブループリント(設計図)こそが、アマゾンのその後20年にわたる驚異的な成長の基礎を固めたのである。

・シリコンバレーの伝説的ベンチャーキャピタリストとして知られるある人物は、ビジネススクールの学生たちに、ベゾスのライティングとコミュニケーション戦略を学ぶことを義務づけるべきだという考えを述べている。ベゾスは、アマゾンの社員が文章を書き、協力し、イノベーションを起こし、アイデアを売りこみ、プレゼンテーションを行う方法を改善するコミュニケーションツールを先駆けて開発した。そうすることで、シアトルのガレージで働く小さなチームを世界最大の企業のひとつへと成長させるうえで欠かせない、拡張性のあるモデルを構築したのだ。端的に述べれば、ベゾスはブループリントを描いたのである。

・ベゾスは、どのような職種であろうと不可欠なスキルがあるという。それが「一流のコミュニケーション能力」。 その元にあるのが「文章力」だ。ベゾスが毎年執筆する株主への手紙はシンプルで、なじみのある言葉を使い、脳にすっと入ってくる文章はコア・バリューを伝えるためのお手本だ。そして、大事なことは、「文章力は誰もが学び、時間をかけて磨くことができるスキル」だということ。

・そこにはメタファーやアナロジーがふんだんに使われているという。メタファーとは「隠喩(いんゆ)」のこと。「あなたは太陽のように明るい」というように、「まるで〇〇のようだ」という言い方。 アナロジーとは「類推思考」のことで、「たとえ話」のことでもある。まったく異なるように見えることに共通点を見出し、意外性のある話にする。 どんなにいいアイデアがあろうと、それが伝わらなければ、お金を集めることもできないし(投資を受けられない)、社員たちにその思いを伝えることもできない。伝え方を学び、一流のコミュニケーション能力を身につけたい。

※2010年5月30日、ベゾスはアイビーリーグの卒業生を前に語りかけた。
「今日皆さんにお話ししたいのは、才能と選択の違いについてです。賢いことは生まれ持った才能であり、優しさは選択です。才能は簡単です。結局のところ、与えられるものですから。しかし、選択は困難をともなうことがあります。突き詰めていけば、選択の積み重ねが私たちを形成しているのです」

プリンストン大学でのスピーチから6年後、ベゾスは、誇りを持つべきは才能ではなく、自分の選択だというテーマを再び取り上げている。「これは非常に重要なことであり、若い人々が理解し、親が子どもたちに繰り返し言って聞かせるべきことです。才能ある若者が、自分の才能に誇りを持つのはしごく簡単なことです。『私はすごく運動神経がいい』『私は本当に頭がいい』『私は数学がとても得意です』というように。それはそれでいいのです。自分の才能を喜ぶべきです。幸せに思うべきです。でも、それを誇りに思うことはできません。誇れるのは、自分の選択のみです」

Did you work hard? That's a choice. (十分に努力したか? これは選択だ。)

Did you study hard? That's a choice. (手を抜かずに勉強したか? これが選択
だ。)

Did you practice? That's a choice. (練習したか? これが選択なのだ。)

「優秀な人というのは、才能と努力を組み合わせることのできる人であり、努力とは選択なのです」とベゾスは述べている。

【進化思考―生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」】太刀川英輔氏

www.amazon.co.jp/dp/4909934006

・心理学者のレイモンド・キャッテルは、人の知能には二つの異なった性質があることに気づいた。 それを彼は「結晶性知能」と「流動性知能」と呼んだ。 結晶性知能とは、学校での学習や社会での規範など、経験によって培われる知能をさす。 いっぽう、流動性知能は、新しいアイデアを考えだしたり、新しい方法で課題を解決したり、新しいことを学習したりするための知能だとキャッテルは定義している。

・この二つは、分類の軸の差はあるが、私がこれまで指摘した天才のなかにある秀才性と狂人性の二つの概念に呼応(こおう)しているように見える。 キャッテルの研究によれば、流動性知能は一〇代で急激に発達するが、二〇歳前後をピークに、その後は徐々に下がっていく。 逆に、結晶性知能は、経験を積んで年を重ねれば重ねるほど高まっていくという。

・さらに調べていく中で発見した興味深い事実は、この流動性知能の曲線が、犯罪をどの年齢で犯しやすいかを調査した「年齢犯罪曲線」のピークとほぼ一致することだ。 まさに、狂人性と流動性知能の一致をここに見ることができる。

・成長とともに危険を冒さなくなる代わりに、私たちは創造性の一部を失っていく。もし社会が安定していて状況の目的(WHY)が変わらないなら、結晶性知能を備えた熟練者は効率的に活躍できるだろう。だが、世界は急速に変わり続けている。 つまり時代とともにWHYも変化してしまうのだ。この変化に対応するには新しい方法(HOW)を取り入れる柔軟な流動性知能が必要だ。

・しかし年をとるにしたがって流動性知能は減少し、信じているWHYもHOWも固定化するため、熟練者ほど、変化の激しい時代には適応できない。つまり、かつてないほど変化が激しく先の読めない現在の社会では、年功序列の組織では立ち行かず、変化に対応できる世代に危険を承知で意思決定の権限を与えたほうが良い結果を導くということだ。

・太刀川氏は、我々は「流動性知能」を高めるための教育をまったく受けていないのだから、単純に年齢のせいにしてあきらめる必要はない、という。 また、逆に「結晶性知能」が熟すのに時間がかかると言っても、若者には物事が分らないというわけでもない、と。 物事の本質を理解するための教育があれば、「結晶性知能」のピークはもっと早く訪れるかもしれないからだ。

・「流動性知能」とは、「狂気」や「狂愚」でもある。 明治維新を起こした若き変革者たちには、ある種の狂気や狂愚があった。 まさにそれは、「諸君狂いたまえ」と言った吉田松陰の言葉にあらわれている。だからと言って、年齢を重ねた大人や年配者に「狂気」や「狂愚」がないわけではない。スティーブ・ジョブズや、エジソンやアインシュタイン、イーロンマスク等々の時代の変革者たちは、年齢を重ねても、ある種の「狂気」をもっていた。
・もしも今、自分が年齢を重ねていて、自分にその種の「狂気」や「狂愚」がないと自覚しているなら、早々に、危険を承知で若手にバトンを渡し、その「狂気」にみちたアイデアを応援する側にまわる必要がある。 今一度、創造性と年齢の関係について思いを巡らせたい。

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