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ちいさなまちの灯台


たちまちメンバーである、篠崎夫妻の営むライトハウス設計事務所。

チリトリ自由食堂をはじめ、芦辺浦の古民家改修や、壱岐島の新しい事業所などを設計している。

芦辺の港から、芦辺浦のまちにはいる最初のカーブに、ライトハウス設計事務所がある。
一言で言うと、グレーの四角い箱。そこにぽつりと灯台のサインがついている。
ものすごく目につくけれど、なんじゃーこりゃ。なんの建物か外からはさっぱりわからない。
(このぎゅっと近づかないとみれないサインが好きです)

ある日、たちまちの作業のためにみんなで入らせてもらったとき。

ドアを開けて「こんにちはー!」
目に飛び込んでくる海。白い空間にパソコンとデスク。

圧倒的な空間の余白。大きく窓枠に切り取られた芦辺漁港の海。

おおきな窓枠に切り取られると普段なにげなく眺めている海の色や波たつ様子が、海に反射するひかりが急に、いしきに上がるのはなぜだろう。

作業に気を取られていると、太陽のひかりがなかに入ってきたのがわかった。

植物や木の材を沢山つかっているわけではないのに、ライトハウス設計事務所の空間は不思議な有機的な温かみに満ちていた。
その時のあたたかな感じは、なんにも物がないのに不思議だな~、としか。

不思議だな〜。から、しばらくして、
神保町の建築専門古書店にふらりと入り、ふと手に取った建築家の本の帯の、
「どのような太陽のひとひらが、あなたの部屋に入ってきますか?」という一文に目をとめた。
それを読んだ時に、ライトハウス設計事務所の不思議な空間のあたたかさ、の理由がわかって、
古本屋で一人、ああ! と言って嬉しくて笑ってしまった。

不思議なライトハウス設計事務所のあたたかみの正体は太陽のあたたかな光。
太陽。 
圧倒的な、空間の余白と引き算のなかに。
当たり前に日々空にある太陽のあたたかさとうつくしさを。があった。
そのあたたかさを感じていたのだ。
建築や風景は、日々、暮らしていて意識しなくても、めに入る。
自分が意識しても、しなくてもそこに在るものだ。
地域やひとのこころを、つくりだす風景からさりげなく育んでくれるもの、建築家は面白い。
こころをくすぐるテロにあったような気分で、やられたー!と思った。
そんなことを仕事にしている人が世の中にいるんだな。と子供のようにおもった。

暮らしのなかで、ふと太陽のあたたかな光に気がつけることができたら。
それは建築家からのあなたへのささやかなギフトかもしれない。



チリトリの窓辺から、また、芦辺浦を歩いていて、篠崎夫妻のちえみさんを見ない日はない。
ぐらい、今日もまちを駆けまわっているなと思う。いつも快活なちえみさんを見かけると
ちょっと元気になって、自分もがんばろう!と思うから不思議だ。
たちまちを立ち上げるときに、芦辺浦のまちの人たちに子どもたちの新しい居場所を作ること、空き家の改修など、活動をはじめる報告と、意見交換会のために開いた会で、ちえみさんがぽろぽろ泣きながら話したことをいまでもよく覚えている。


ささやかだけれど、つよい願いから、生み出されていく風景。

優しさとはなにかを教えてもらった。


photo by yu.nakamura.


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