見出し画像

出生前診断について

【2019/12/7更新】
先日この様なツイートをしました。

妊婦さんの中で「出生前診断」の具体的な内容について知りたい方は多いと思います。


この記事ではこのツイートの内容をを深掘りしつつ、出生前診断にはどの様な検査があり、各々の検査についてどの様なメリットやデメリットがあるのか解説していきます。


ところで、昨年度末に下記の様なニュースがありました。

以下、記事からの抜粋ですが、


" 胎児の染色体異常などを調べる出生前診断の国内実施件数が、この10年間で2.4倍に急増したことが、国立成育医療研究センターなどの調査で分かった。

直近の2016年は約7万件と推定され、35歳以上の高年妊婦に限れば4分の1が受けている計算になる。


さて、ここ数年で急速に普及してきた出生前診断ですが、この検査は妊娠したら必ず受けないといけない検査ではありません。


安易に出生前診断を行うのではなく、適切な知識を持ち、夫婦間で良く話し合いを行い、その意義を理解して検査を受ける事が重要です。


検査を行う施設側の責任も重大ですが、安易な気持ちで十分な説明もなく検査を受けると、不本意な結果であった時に傷つく方もいらっしゃるかもしれません。


今回はその様な状況を鑑みた上で、出生前診断について知って頂きたいポイントについてまとめて解説していきます。

**********

出生前診断とは

■ 出生前診断で検査できる疾患とは。

生直後に異常のある赤ちゃんは3〜5%いると考えられています。


では出生前診断では、どの様な病気をスクリーニングすることが出来るのでしょうか。

・ 21トリソミー
・ 13トリソミー
・ 18トリソミー
・ 神経管異常症等

以上が出生前診断でスクリーニング出来る疾患です。出生前診断では決して、全ての病気を見つけることが出来る訳ではないことが重要です。


人はそれぞれの遺伝情報を決定する染色体が存在します。代表的な先天性疾患であるダウン症候群(21トリソミ―)は、21番染色体が通常より1本多く存在し、計3本(トリソミー症候群)になることで発症します。ダウン症は、最も一般的な遺伝子疾患で、年間1/1000の確率で出生されるといわれています。


その他に染色体異常の疾患としては18トリソミー、13トリソミーなどがありますが、ダウン症候群(21トリソミー)が8割程度を占めています。


21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの中でも最も頻度が高いのがダウン症ですので、この記事では「ダウン症」を中心として出生前診断について解説していきます。

■ ダウン症について

以下、「年齢別の妊娠中の胎児がダウン症である確率」です。

スクリーンショット 2019-12-03 3.57.10

ダウン症のお子さんは、身体的発達遅延があり、知的障害も見られる事がありますが程度は様々です。


ダウン症の児を妊娠している可能性は、25 歳で1040人に1人、35歳で295人に1人、45歳で21人に1人と、母体の年齢が上昇するにつれて確率が上がります。

**********

検査の種類について

出生前診断とは、生まれる前に赤ちゃんが何らかの疾患を持っているかどうか、検査をして診断することです。

出生前検査の種類には「非確定的検査」と「確定的検査」があり、以下がその違いとなります。

スクリーンショット 2019-12-03 3.59.19

スクリーンショット 2019-12-03 4.01.25

出生前検査の元来の目的は、あらかじめ出生前に生まれつきある赤ちゃんの状態を検査し、

生まれる前から赤ちゃんの病気に対して治療を行なったり」「生まれた後にも赤ちゃんが、より治療しやすい環境の準備を進めるため」に行われるものです。


出生前診断には、侵襲性のあるものと非侵襲性のあるものがあります。また、画像検査で終わるものと、遺伝的検査で終わるものがあります。特に日本で多く行われているものには、超音波検査、母体血清マーカー、羊水検査、また後ほど紹介するNIPT検査があります。


各々の検査について詳しく解説していきます。

■ 超音波検査について。

超音波検査に関しては、近年の超音波検査の進歩とともに胎児、胎盤、羊水などの子宮内の情報をかなり詳しく見る事ができるようになりました。


超音波検査は上記2つの検査とは異なり、染色体などの異常を検査するものではなく、形態的な異常を見つける検査です。


たとえばダウン症のお子さんでも、外見的には他のお子さんと同じ方もいますし、正常な染色体を持っていた子供でも、何百分の1の可能性で正常と異なるが外見で生まれてくる子供がいます。


超音波診断は形を判断する検査ですので、染色体の異常は判断できず、代わりに児の奇形がないかどうかの検査と考えて良いでしょう。


胎児は成人と異なり検査に最適な体位をとる事ができないので、妊婦さんのお腹の上から、その時に見える状態で胎児を判断します。ほとんどの場合には多くの情報を得る事ができますが、胎児の体勢や位置によっては見る事ができない部分があります。


赤ちゃんは大人と違って検査に適した体位をとる事ができないため、妊婦さんのお腹の上から、その時に見える状態で胎児を判断します。


ほとんどの場合は多くの情報を得られることができますが、胎児の体勢により見る事ができない部分があります。


例えば胎児が後ろを向いていた場合には顔の異常はみつけられません。そのためにこれは複数回受けることにより、この診断率を上昇させられます。

■ 羊水検査について

仮に「ダウン症疑い」の妊婦さんが私の外来にいらっしゃったとします。その妊婦さんが、ダウン症の児を「絶対に」望まないのであれば、羊水検査によってほぼ確定診断ができます。


しかし羊水検査にもリスクがあります。皮膚を経由して子宮に針を刺す検査のため、その行為自体で300件に1件は流産が起こります。



また非常に稀ですが、羊水中の細胞培養の際に母体細胞が増殖してしまう場合、胎児の細胞が取れずに診断できない場合があります。



この検査は15週以降の妊婦さんが受けることができます。
ただし、日本の法律上は22週を超えると胎児は1つの生命と扱われますので、いかなる理由があろうとも人工妊娠中絶を行うことができません。



そのため、検査を希望されるなら15週以降から18週(16週で行われる施設が多いです)ぐらいまでが適当であると考えます。

■ 母体血清マーカー(トリプルマーカー、クアトロ検査について)

母体血清マーカーは、非侵襲性的な検査で、赤ちゃんにリスクのない染色体検査です。母体の血液を採取して、AFP、hCG、uE3、の濃度を測定することにより、妊娠中の胎児がそれぞれの病気を持っている可能性がどれくらいか計算するもので、結果は確率として何分の1 (例; 1/300 )として出されます。


これはあくまで確率なので、確定診断はではない。という事が重要です。また、トリプルマーカーテストとクアトロテストの違いについて詳しく調べたい方はこちらを参照してください。


この検査は妊娠15週以降の妊婦さんが受ける事ができますが、結果次第で羊水検査に進む可能性を考えると、妊娠15週から妊娠16週ぐらいに受けられるる事が推奨されます。


受けられる期間が決まっている検査ですので、その週になる前にご家庭内で検査やその検査次第の方針について十分に話し合っておいてください。(リスクのない検査ですので、病院によりますが、妊娠15週までには申し出た方が良いかと思います。)

■ 母体血胎児染色体検査(NIPT)について


新型の出生前診断法として母体血から検査する方法で、日本では2013年4月から導入された検査法です。


NIPTの特徴は「赤ちゃんにリスクのない採血検査で、胎児の染色体検査が99.9%の精度で行える」という点です。



しかしこれは日本では、一部の認定された施設でしか行えません。
この検査は、「診断」ではなく染色体異常の可能性を「見出す」もので、この対象となる染色体異常の疾患は、「21トリソミ―(ダウン症候群)」、「18トリソミー症候群」、「13トリソミー症候群」の3つです。
また、NIPT検査が対象とするハイリスク妊婦は以下となります。


NIPT検査の対象となるハイリスク妊婦

1. 超音波検査で赤ちゃんに染色体異常の可能性があるとき。
2. 母体血清マーカー(クアトロ検査)で、染色体異常の可能性があるとき。
3. 染色体異常の赤ちゃんの出産経験のある方
4. 高齢の妊婦さん
5. 両親のいずれかが遺伝子異常(ロバートソン転座があり、赤ちゃんが13トリソミーや21トリソミーの可能性があるとき。

上の表のハイリスクの妊婦の方では、NIPTの陽性的中率(検査が陽性となった妊婦さんが実際に染色体異常の児を妊娠している確率)は高い検査の一方で、若い妊婦さん(20代、30代)では逆に低く陽性的中率は低くなります。


陰性的中率(結果が陰性の場合に実際に染色体異常の赤ちゃんを妊娠していない確率)は年齢関係なく99.9%以上です。例えば、NIPTが陰性の場合はダウン症候群などの赤ちゃんである可能性はほぼないため、リスクのある絨毛検査や羊水検査を受けない選択が増えるメリットがあります。
以上をまとめると、「NIPTは、羊水検査など侵襲的検査を受ける妊婦さんの数を減らすために利用できる検査」であり、これは諸外国でも同様の考えです。

2018年1月26日時点で、全国90施設で実施されています。
NIPTコンソーシアムのホームページで確認することができます。また、
NIPTコンソーシアムのウェブサイト ではより詳しい出生前検査の比較表が確認できます。

**********

出生前診断を行う前にまずは、遺伝カウンセリングを受けるべき。

遺伝カウンセリングとは、単に出生前検査の説明だけではなく、ご夫婦の出生前診断に対する理解を深め、さらに検査への不安などを含めた相談を行うものです。検査を行う施設も、十分な知識を持った医師の配置や適切なカウンセリング体制を整える必要があります。


説明の内容は、『検査の意義・方法』、『検査の診断能力の限界』、『母体・胎児に対する危険性』、『判明する異常の詳細』『検査結果判明後の対応や支援体制に関する方法』などです。
遺伝の専門職(臨床遺伝専門医など)によって行われ、産婦人科学会も遺伝カウンセリングを受けることを推奨してます。

特に、今後NIPTの検査を検討されている方は、厚生労働省の「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針」を一度目を通される事をお勧め致します。


もし、通院しているクリニックや病院でカウンセリングを受ける事ができない場合には、以下から検索することができます。

生殖医療に関する遺伝カウンセリング受け入れ可能な臨床遺伝専門医
全国遺伝子医療部門連絡会議の以前し医療実施システム

この遺伝カウンセリングを通して、夫婦間の妊娠に対する考え方をまとめ、赤ちゃんに異常があった場合どうするかなど、施設側から心理的な支援を行ってもらいながら今後のことを含めて整理していきましょう。
そして、検査を受ける場合にも受けない場合にも、それを受け入れる気持ちを夫婦間で持つことがとても大切です。

**********

まとめ

以下、まとめになります。

1. 羊水検査は100%確定診断ができるが、流産のリスクがある検査。
2. 母体血清マーカー(クアトロ検査)は確率のみわかる検査。
3. 超音波検査は染色体はわからないが、構造の異常(奇形)を見つける検査。
4. NIPTは陰性的中率が高く、羊水検査など侵襲的検査を受ける妊婦さんの数を減らすために利用できる検査。

検査はいろいろ組み合わせて行う事ができ、例えば羊水検査で染色体の検査をした後に超音波検査で形態的な異常を確認したり、OSCAR検査のようにリスクの低い検査を組み合わせることもあります。


今回は、近年急速に広まりつつある出生前診断について詳しく説明しました。
カウンセリングを受けた上で正確な知識をもとに、学会や国から推奨された手順を踏んで検査を進めていくことが何よりも重要です。また、ご夫婦で授かった命をどの様一緒に考えていくことが非常に重要です。


※ これらの情報は、知らないために選択する機会を失うのを防ぐためのもので、妊婦さんに検査を強制するべきものではありません。

※ 染色体検査は出血前診断に含まれる分野のため、ご家族が良く話し合われて選択する事が重要です。

**********


最後まで拝読して頂き有難うございます。
※ この記事に関してご指摘ご要望などがありましたら、弊ブログの「お問い合わせフォーム」までご意見を頂ければ幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?