これから浪人が決まった人へ

現役合格を目指していた頃は、浪人とは負け犬の溜まり場で、二浪なんてしようものなら世間からのあぶれ者、変人の極み、くらいに思っていた。現役合格だけを目標とする進学塾や進学校の教育が当時の自分の全てだったから、それも当然のことだったと思う。
誰も、浪人して良かった、浪人という道もある、とは言わなかった。現役合格した優秀な先輩の話はしょっちゅう話題に上ったが、浪人して大逆転劇を見せた先輩の話なんて誰もしなかった。

だが実際は、浪人して大逆転劇を見せた先輩達は一定数存在しているのだ。高校の教師や後輩や同級生や塾の中で大きな話題となり華やかに祝われる現役合格生とは違った形で、大きく注目されぬまま、あの子どうしてるのやらと言われながら、自分を信じ諦めず走り切り静かにガッツポーズを決めた浪人の先輩達は、確かにいるのだ。

自分もその1人だ。二年の浪人の末に国立大学の医学部医学科に合格した。

人生はやり直しがきかない。後戻りできない。それは自明の真理だ。
しかし、浪人時代は違う。去年の自分の欠点を洗い出し、後悔を書き並べ、穴だらけの自分を一つ一つ修復することができる。しかも、去年と同じ時間軸で、ゼロに戻って、再出発できる。去年の自分をなぞるように過ごすことで去年の迷宮に今年は地図を持って踏み込むことができる。現役合格していたら見つけられなかった宝を得ることができる。その宝は間違いなく一生ものだ。

浪人時代に猛烈に自分と戦ったことは今でも自分の自信だ。あれが、初めての鮮烈な自己肯定感の奪取だった。
浪人して最初の授業でもらった予備校講師の言葉を送りたい。

「一生思い出してあの時の自分は本当にかっこよかったと思える一年にしろ」


君の人生に、そんな一時代を築け。
またとないこのチャンスを逃すな。

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