巨匠のワザの学び方:演繹と帰納

(お読みの方へ)

現代ギター史に寄稿した「伝統と革新~ペペ・ロメロの教本にギター奏法史を俯瞰する」のロングバージョンです。本誌では構成を全面的に変えてあり文体も平易にしてありますが、最初に書いたこのバージョンのほうがより詳細に私の言いたいことを書いています。

1:巨匠の技を学ぶ

巨匠の技…巨匠が用いている技術について皆知りたいと望んでいる。その技術と音楽性を盗むために巨匠から学ぶことは音楽学習において大切なプロセスである。留学やマスタークラスなどで学ぶ方法、その巨匠達が書いた著作やインタビューなどの残された言葉から学ぶ方法…方法は様々だ。

一方でこういう意見もある。直接学ぶにしろ、教本などから学ぶにしろ、ギターの技術や音楽についてのアプローチは奏者の個人的な資質によるところが大きいので習得不可能であるという意見である。巨匠は天賦の才能があったので、それは我々凡人が真似をすることはそもそも無理という意見である。そこには、言葉でその天才の技を解明することはできないという「言語によるコミュニケーション」への不信もあるだろう。

実際、クラシックギターの教授メソッドを考えてみると、師匠から弟子への口伝という形式をとることが多い。古今東西共通していることは「師匠の型」を学ぶ(真似る)ことにより、技術を体得していくというスタイルが一般的であった。頭で考えるよりも、師匠の動きや音楽などをしっかりと目で見て、耳で聴いて、自分の身体の中に再現しながら体得していくという方法論がとられてきたのである。

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