武満徹SONGS うたうだけ Acoustic Ladyland 全曲解説

序文〜全曲録音までの経緯

武満徹といえば「現代音楽の巨匠」である。世界中どこに行っても、クラシック音楽の世界で武満徹の名を知らぬ音楽家はいない。とはいえ、それは「ノベンバー・ステップス」などの”現代音楽”の作曲家として名を知られているに過ぎない。近年、彼の作った”ポップソング”への評価が高まってきている。武満徹自身はその音楽家修行の初期からジャズやビートルズを含むポピュラー音楽への偏見のない嗜好を示してきた。それは彼の書いた「ギターのための12の歌」の選曲を見てもわかる。ビートルズの楽曲が3分の1を占めるが、残りにはコスマ作曲の「失われた恋」やガーシュインの「サマータイム」…中田章の「早春賦」までを含み、彼の視野の広さを感じさせる。
彼にとっては”良い旋律”は”良い旋律”なのである。そこに”音楽はかくあるべし”というクラシック作曲家にありがちなスノッブな姿勢はない。


そして、2020年に発売された我々のCD「武満徹SONGS〜うたうだけ」では、彼が作ったクラシック音楽作品ではない”うた”を全曲収録した。歌とギターというシンプルな編成で、彼の作曲家としての和声感と旋律の中に宿る匠の技を浮き彫りにすることができた。
そもそも、この武満徹の歌を全曲演奏するという企画は、東京の大泉学園にあるライブハウス「in “F”」のマスターである佐藤浩秋氏による提案がきっかけであった。富川の方が「数ヶ月ペースで武満徹の作品を演奏するライブをやっておくれ」という依頼を受けたところから始まる。前半は「ギターのための12の歌」と武満徹が書いた現代書法によるギター独奏曲を演奏し、後半で「うた」をやってみようと考えた。「ギターのための12の歌」はこの巨匠の音楽的な嗜好を吟味する上で重要であると感じていたが、そこに彼自身が書いた大衆に向けたポップソングを配置すれば、より彼の感性が理解できると考えたからである。
そして、2018年に数回に分けて「うた」全21曲を演奏した。ライブごとに少しずつアレンジをしながら、そして、歌い手の石塚裕美と擦り合わせをしながらの作業であった。このような場を与えてくれた「in “F”」マスターの佐藤氏には本当に感謝しかない。こういうチャンスでもなければ、全21曲のアレンジなど無理であったと思う。


2019年春には全21曲を一晩で演奏するという機会を得た。場所は神楽坂にあるThe Glee。クラシックもポピュラーもジャズも邦楽のアーティストも出演しているライブハウスなので、この手の企画にはぴったりの場所であった。当時The Gleeでブッキングマネージャーをやっていた甲氏もライブが終わった瞬間に「音源化したいですね!」と言っていたことを覚えている。

そして、2020年。2月あたりから「コロナ禍」が始まった。そして、この甲氏の提案で「CD作りましょう」という話となった。未知のコロナウィルスの脅威の中、4月にレコーディング。ソーシャルディスタンスを意識して、奏者間の距離は10メートルほど。それでも21曲を録り終えた。
その後、すぐに発売となる予定ではあったが、流石にこのコロナ禍の中で発売レーベルが変更になるなど…様々なドラマがあり、やっと2020年11月に音盤となり発売。

ちょうどコロナ禍の時代にもぴったりとはまったのだろうか、好評をいただいている。

ライナーノートについて

CD自体にはライナーノーツがない。なので、今回購入者の便宜を図るためにもライナーノーツを書いてみることにした。曲全体の解説+演奏者それぞれの印象や雑感など…付け加えることで、聴いていただく方には更にイメージを膨らませていただけることと信じている。
また、ライナーノーツ購入特典として2020年11月29日に学芸大学 Cherokee Live Tavernで行った「レコ発ライブ」の全編をご覧いただけるようにした。もちろん、CDを購入していない方も「武満徹のポップソングってこんな感じなんだー」と楽しんでいただけたらと思う。

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