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ピクチャー

幾千年の昔、とある村にピクチャーという偉大な絵師が住んでいました。なんと、ピクチャーの描いた絵は、その紙面から抜け出し、現実となるのでした。

とある年、その村には強大な大飢饉がおこりました。すると村人たちはピクチャーに食物を乞いました。ピクチャーは紙を敷き、筆を持ち、墨に浸し、食物を描くとその紙面から大量の食物が湧き出たのです。そうしてピクチャーは崇め奉られるようになったのです。

いつものように村の人々が平穏な日々を送っていると、一人の村人はふと思いました。

「もしや、ピクチャー自身が凄いのではなく、ピクチャーの持っているあの筆、あれに何か特別な力が宿っているのではないか?」

村人が周囲を見渡すと、いつものようにピクチャーを崇め奉る者達で溢れかえっています。さらに村人は思います。

「あの筆さえ自分のものにしてしまえば、俺が崇め奉られるようになるのではないか?」

しめしめとはにかんでいると、横にいた別の村人が話しかけてきました。

「何をそんなおかしいことがあるんだい?」

「この村を支配する方法を思いついたのさ。どうだ?お前も一緒にやらないか?」

2人はすぐさま結託し、行動へ移すのでした。

とある日の夜、ピクチャーが2人の村人に殺されました。村内は大騒ぎです。2人はピクチャーの筆を奪い、騒ぎに乗じて近くの森へと駆け出しました。とある洞窟に身を隠すと2人は目を見合い白い歯を見せ合いました。早速紙を敷き、筆を取り、墨に浸し構えます。

「まずは何の絵を描き表そうか」

「雷神様はどうだい?現れたら俺達の手下にして、隣の国でも滅ぼしてもらおうじゃあないか」

「それは良い考えだ。決めた」

そうしてスラスラと雷神様を紙に描きました。…しかしいつまで経っても雷神様は紙から出てきません。

「どう言うことだ?なぜ現れない?お前の絵が下手くそだったのではないか?貸してみろ!俺が描く」

…しかし雷神様は紙から出てきません。

「くそっ。やっぱりピクチャーが描かないとダメなんだ。俺達は馬の耳に念仏を唱えてた」

すると突然洞窟の入り口の真上にある大きな岩が崩れ、洞窟を塞いでしまいました。2人は洞窟から出れなくなってしまいました。これらはまさに、ピクチャーの怨念だったのです。

ピクチャーはずっと不満を抱えていました。村人へ恩恵を与えてはやるが見返りはない。感謝の言葉などピクチャーにとってはただの耳に入ってくる汚物でしかありませんでした。しかし次第にピクチャーは神のような存在として崇め奉られていきました。そこでピクチャーはこの状況に終止符を打とうと考えます。そうしてピクチャーは紙を敷き、筆を持ち、墨に浸し、未来を描きました。


"とある村人2人が、自分を殺し、筆を奪い、誰も知らぬ光も届かぬ場所で筆と共に死んでいく未来"を

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