運命の赤い糸
幾千年の昔、ブルージャオという老人が、山道で少女を拾いました。ふと、その少女の指を見てみると、何やら赤い糸が複雑に絡まり、どこか遠くにまで伸びていました。何処に続いているのだろうと不思議に思ったブルージャオは、赤い糸の続く先を辿りました。しかしいつまでたっても赤い糸の終わりは見えてきません。とりあえず少女を家に連れて帰ろうとするも、赤い糸が木や枝に絡まり不自由でした。仕方なく引きちぎろうとするも千切れず、ハサミで切ろうとするもきれず、困り果てたブルージャオはなんとかして少女を家まで連れて帰りました。
2日後、少女は目覚めました。
「君は向こうの山道で倒れていたんだ。だから偶然通りかかったわしがこの家まで連れてきた。どれ、この温かいスープでも飲みなさい」
ブルージャオがそういうと、少女は言いました。
「私は何も口に入れなくても死なないし、死ねない。ここ6000年ほどは、はらなりも起きておらぬ。」
ブルージャオは、目の前にいる少女が何を言っているのか分かりませんでした。続けて少女はとある昔話、昔あった本当の話を語り出しました。
幾千年前、氷の地に住む老婆が、1人の魔女と出逢いました。そして魔女は言いました。
「其方の願いを叶えてやろう。しかし、それなりの対価はいただくつもりだ」
老婆は脊髄反射の如く願いました。
「永遠の若さが欲しい。数十年前、草原を走り回り輝いたあの頃の私をもう一度」
承知した、と。魔女は一言言うと老婆に魔法をかけました。
「おお!ピチピチの肌にこの有り余る元気!これこそ私が望んだ"若さ"だよ。ありがとうよ魔女さん。それはそうとして…何だい?この指に絡まってる赤い糸は。」
「それは運命の赤い糸だ。見よ。どこまででも続いているだろうその糸は。あの大きな山を越えてもなおずっと続いている。」
「もしかして、この赤い糸がさっき言っていた願いの対価なのかい?いや、しかし魔女さん、貴方に得がないように思えるが」
「我は人間の滑稽劇を見るのを嗜好としている。なあに、我の得など其方が知ったところでだ。…それと、よく覚えときなさい。その運命の赤い糸は決して腐りやしないし切れやしない。其方の指から離れもしない。其方は先程願った。"永遠の若さ"を願った。まるで蜂に蜜を乞うかのように軽々と。我が保証する。其方は永遠の若さを手に入れた。この先幾千年いや、幾万年、幾億年と生き続ける。もしその永遠の中で苦痛にまみれ死を望むようになったとするならば、その運命の赤い糸を辿りなさい。その先に貴方を極楽へ導くものがある。」
「死を望むなんてそんなことあるはずがないわ。だってこの若さを手に入れたんだもの。」そう言って少女は近くの街へ走り出しました。
少女が話し終わるとブルージャオは尋ねました。
「ところで、君は今何をしているんだい?」
少女は答えました。
「運命の赤い糸を辿ってるの」
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