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美少女ゲームの特異点「超空間」に今更巻き込まれる男

かつてゼロ年代の前半、美少女ゲームはオタク趣味のエッジを担っていた。

エロさえ入っていれば後は何をやってもOK。そんな自由な土壌は多種多様な作品を生み出し、そこには萌えはもちろん、心震わす感動も、血のたぎる燃えもあった。

とはいえ光あれば陰あり。酷いものはとことんまで酷いのも美少女ゲームの紛う事なき一面だ。シナリオに整合性が無い程度なら可愛いもの。麻雀ゲームなのに役がまったく反映されないとか、下手するとハードディスクのデータを全消去するとか、そもそもまともに動かないとか、商品失格レベルの代物すらそう珍しくなかった。

そんな修羅の国でも、マイナス方向に別格とされたメーカーがある。

その名はハイパースペース。通称「超空間」。

まぁ発売されたゲームのどれもが一騎当千と呼べる破壊力で、興味のある人は「オベイ」や「やきにくくりぷうぴ」あたりでググって戦慄すると良いと思うのだが、今回紹介するのはそんな超空間のゲーム…ではなくアニメDVD「ありす+全集」である。いくら超空間といえどもゲーム要素のない作品ならそこまで大変な事態にはならないでしょ?と興味半分で買ってみたのだが…。

なおオリジナル版の発売は2004年。同時期には「fate/stay night」や「SHUFFLE!」、18禁ではないが「CLANNAD」などが発売されていたことを念頭に置き、以下を読んで頂きたい。



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これが表パッケージ。「アダルト美画ニメ」という聞いたこともないキャッチフレーズが気になるものの、イラストは普通に可愛く、特に問題ないように思える。


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だが、パッケージ裏の一部を見ると早くも不穏さが漂ってくる。明らかに句読点の位置がおかしいストーリーも気になるところだが、それよりも注目してほしいのは最下段の部分、収録時間である。

30min。すなわち全30分。…え?それだけ?タイトル名で全集と銘打っているのに?


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ともかくDVDドライブに突っ込んでみると、現れたのはシンプル極まりないタイトル画面。分かるのは2話収録だということだけだ。…ということは単純計算で1話15分。今時ドラえもんやちびまる子ちゃんくらいでしか見ない尺構成だが、はたしてこの短さで満足いくシーンや物語を詰め込むなんて可能なのか…?考えていても仕方ないので、早速第1話から観てみるとしよう。



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ヒロイン・ありすの作画は悪くない。悪くないんだが…とにかく動かねぇ!

アニメといえば普通はキャラクターが躍動的に動くものを想像するだろうが、超空間の前にそんな常識など通用しない。そこに広がったのは一枚絵が右から左、上から下へとアニメーションする、有り体に言えばスライドショーのような光景だった。しかも開始数分で使い回しに気づく絶望的な素材不足っぷり。

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そして「これ設定画にとりあえず色塗っただけだよね?」ってシーンも出てくる始末。ちなみにこれ、ありすの想い人であるジン君の登場シーンである。どうやらジン君は引きこもっており、幼馴染のありすが彼の心を開こうとするというのが筋書きなのだが、そこは本編15分。マッハでジン君は落ちて18禁なシーンへなだれ込む。あー突入前にまたさっきと同じシーン使い回してるよ…。

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いや右下、誰だよお前。

製作者のお遊び…なのだとは思うがインパクトが強すぎて続く愛の営みなんて頭に入ってこねぇ!あ、さすがに肝心のシーンはスライドショーではなくきちんとアニメーションしてました。

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それにしてもジン君の作画が安定しなくて別人にしか見えない…。これ、ほとんど次のシーンなんだぜ…。


ともあれ恋人同士になったありすとジン君。まぁ駆け足も駆け足だったけど一応話はまとまっていたかな…と思ったのも束の間。

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まさかの交通事故エンド。ええー!?

いや恋人になって大団円でいいですやん!わざわざ事故らす必要性とは?

…そうか、突っ込みどころが多すぎてすっかり忘れてたけど、これもう1話あるんだった。つまり事故は第2話への引きってことだよね!そうだよね!ここは早速続きを観るしか!



結論から言うと何も関係ありませんでした。第1話より前の時間軸っぽい導入でそんな気はしたけどさ…。

なお話の内容としては、引きこもっているジン君を思ってありすが一人遊びする(性的な意味で)という感じ。書くのが面倒くさくなったとかじゃなく、マジでそうとしか言いようがない。

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あとジン君はまた顔が変わってた。



全30分という時間を長いと感じるか短いと感じるか。その判断は読者の皆さんに委ねたいと思う。ただひとつ確かに言えるのは、突っ込みながら観る分には楽しめたということだ。

言うまでもなくそれは美少女アニメとしては失格な消費の仕方だが、そもそも美少女アニメが性的に興奮できるものだなんて誰が決めた?疑え。常識を疑え。アニメと言われて一枚絵のスライドショーを予測できなかった自分を、この作品で過去のものとしたように。

…そんな超空間からのメッセージを受け取ったような気がするが、多分ただの電波なのでスルーして明日も強く生きていきたいと思います。みんなも逝こう超空間。



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