見出し画像

「ファミ・コンプリート」と「ファミリーコンピュータ1983-1994」

2003年。

ファミコンソフト収集を趣味にしていた自分にとって、この年は特別な時期だった。

理由は2つある。まず1つは、自分が7年をかけて全てのソフトを収集し終えた記念の年であること。そしてもう1つは、ファミコン発売20周年に合わせて公認・非公認問わず様々な展開が生まれたことだ。

今回は後者の話。ファミコン20周年に合わせて登場した2冊の書籍「ファミ・コンプリート」と「ファミリーコンピュータ1983-1994」を振り返ってみたい。

というのも、先日オロチ氏のブログ「ファミコンのネタ!!」で興味深い記事が公開されたからだ。

「ファミコンの総タイトル数は何本なのか?」

記事を見てもらえば分かる通り、実はこの問い、簡単そうに見えて2022年現在でも明確な答えが存在しない。自分も一応コンプリート達成者の端くれとしてコメントを寄せさせてもらったが、それもただの一意見。どこまでを正式販売とするか、ソフトではなく周辺機器扱いとするか、バージョン違いは含めるのか…等々、マニア間であってすら見解が分かれるのだ。

まして約20年前、ファミコン総本数の手掛かりとなる資料は「大技林」(徳間書店)くらいしかなかった。それも集めるうちに抜けがある(「ベストプレープロ野球新データ」とか)と気付く不完全なもの。そこで完璧にファミコンの全てを記そうと登場したのが「ファミ・コンプリート」と「ファミリーコンピュータ1983-1994」だったわけである。


「ファミ・コンプリート」

画像1

発売は、改造もハックも何でもありな異端ゲーム誌「ゲームラボ」で知られる三才ブックス。その出版社の立ち位置らしいというべきか、各ゲームメーカーの許諾は取られていない。とはいえ制作には当時日本最強のファミコンコレクター・ベラボー氏が深く関わっており、全てのソフトを満遍なく、かつきちんと理解したうえで紹介している。

もう昔の話なので書いてしまうが、実は当時学生だった自分もほんの少しだけ協力をさせてもらった。しっかりとゲームを遊んだ上で制作に関われるよう、コレクター仲間とゲーム合宿までしたものだ。男数人で「エキサイティングボクシング」のビニール人形と本気で格闘したり、誰もがノーマークだった「けろけろけろっぴの大冒険2」をプレイして「いやこれワギャンランドやないか!しかも攻撃方法の文字が“ケロッピ”って!」と笑い合ったり…。今でも良い思い出である。

運良く間近で見られた分、ベラボー氏がこの本にどれだけの情熱を注いでいたかはよく知っている。定説とされていた「大技林」の1240本を超えて本書で提示されたファミコン総本数1249本は、その表れだ。メーカーの協力もなく、積み重ねた知識で完全を目指して補完する。それは間違いなく、氏がファミコンに身も心も捧げていたマニアだからこそ実現した“定説超え”だったのだ。


「ファミリーコンピュータ1983-1994」

画像2

こちらはファミコン20周年に合わせて東京都写真美術館で開催されたイベント「レベルX」の図録である。「レベルX」はファミコン全ソフトを展示する前代未聞のイベントで、任天堂をはじめ各ゲームメーカーからの許諾を受けて行われた。もちろん図録も引き続き許諾を受けている。

実は“メーカー公認のファミコン全網羅本”というのは、現在まで含めても非常に珍しい。というのもレトロゲームを扱う書籍の大半は、ゲームメーカーからの許諾を受けていないからだ。もちろん無許諾を良しとする編集者や執筆者など居ない(…はず)。しかし昔のゲームとなると現在の権利所有者が不明な場合が多々あり、完璧なものを作ろうとするほど無許諾で作らざるを得ない矛盾が生まれてしまう。本書はメーカー公認イベントの図録という形式だったため、この矛盾を解消できたわけだ。

あくまでイベントの図録であるため、その内容はカタログではなく美術書といった方が近い。ほとんどのタイトルは発売日やメーカーといった基本情報とパッケージ写真だけ。正直言って気になるタイトルを調べるといった使い方には向いておらず、カタログ本を求めていた層からすれば肩透かし感があったのも事実だ。一方で宮本茂氏、堀井雄二氏、田尻智氏といったクリエイターへのインタビュー記事は豪華の一言で、読み物としては十分以上に楽しめる内容となっている。

そんな「ファミリーコンピュータ1983-1994」で示されたファミコンソフト総本数は、1252本。「ファミ・コンプリート」と3本の開きがあるが、これは周辺機器とも言える「ファミリーベーシック」「ファミリーベーシックV3」と、ディスクカード書き換え版で少し内容が違う「SDガンダムワールド ガチャポン戦記」をそれぞれ1本扱いとして数えたことから生まれた差異だ。


そして約20年の月日は過ぎて

現在、ファミコン総本数は「ファミリーコンピュータ1983-1994」で提示された1252本が定説とされている。ゲームメーカー公認という錦の御旗は、やはり強かった。

とはいえこれが絶対的な正解ではないことは、先のオロチ氏のブログ記事に書かれている通り。任天堂が内訳付きでファミコン総本数を発表でもしない限り、この先も正解は確定しないだろう。

これは個人的意見だが、正解がないこと自体は大きな問題ではないと思う。それよりも「あれは含まれるのでは?」といった議論、「新たな根拠を掘り起こした!」というような発見の方が重要だと考えているからだ。一度は市場的に終わったファミコンは、それでも情熱を持って追い続けるマニアの手で情報がアップデートされ、その全貌が見えるものになってきたのだから。

来年2023年は、ファミコン誕生40周年。きっと情報はこれからも更新され、新たな歴史は紡がれてゆく。ファミコンに虜にされた身として、その更新の一助になりたいと切に願う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?