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【らんまん】明治初期に植物学を学ぶには

朝ドラ「らんまん」高知編で、万太郎の植物学の道に進むのは、蘭光先生との出会いがもちろん重要ですが、万太郎が独力で本から植物学を学んでいたシーンも描かれています。

重訂本草綱目啓蒙

4月12日の回、明教館の教室に入れずに植物を見ていた万太郎は、蘭光先生からこの本の蛇苺(へびいちご)のページを見せてもらいます。その翌日の回では、大変な量の本を購入したことも描かれています。

 私は明暮この本をひっくり返して見ては色々の植物の名を憶えた。(中略)丈の高い菊科のもので白い花を付けている植物があった。名は無論知らなかった。その後『本草綱目啓蒙』を見ていたら、東風菜という個所に「しらやまぎく」というのが載っており、山で見たものと酷似しているので、翌日再び山に登り、本と実物とを引合せたところ、やはり「しらやまぎく」であった。私はその時はじめてこの草の名を憶えた。 (中略)また町の近所で上に小さな丸い実のある妙な草があったので、『本草綱目啓蒙』で調べたところ、それは「ふたりしずか」であった。このように自分の実際の知識と書物とで、名を憶えることに専念した。

牧野富太郎自叙伝

元々は中国の書物『本草綱目』。江戸時代の学者小野蘭山がこの書物をもとに私塾で講義をし、日本人でも読める『本草綱目啓蒙』として出版。その何度目かの改訂版で、牧野富太郎が買ったのがこの『重訂本草綱目啓蒙』です。国立国会図書館デジタルコレクションで48巻組のものが読めます。

牧野富太郎はもちろん日本植物学における大人物ですが、江戸時代の植物学「本草学」にも相当優れたものがあったのです。

植学啓原

4月17日の回に出てきたのはこちら『植物啓原』です。

親友の堀見は私より年少の男で、父君は医者だったが、私は堀見の家で『植学啓原』という本を見た。この本は三冊あり、宇田川榕庵のつくった和蘭の本の訳本で、西洋の植物学を解説したものであったが、この本について植物学を勉強した。リンネの人工分類(自然分類でない)を習い、植物学の種々なる術語をこの本について会得した。

牧野富太郎自叙伝

この本を翻訳した宇田川榕庵は植物学者ではなく、蘭学者・医者で、医学・化学などの翻訳も多数行なっています。ただごとでない人物です。


ポイントは、中国からの本草学と西洋の翻訳書、両方から学んでいて、でも、身近な植物のことは全然わからない。日本の植物学に足りない部分が相当あることが万太郎にはよくわかっていたのだと思います。

おまけ:博物図

明治5年に学制ができて、誰でもが小学校に通うことになります。学校で使われていた掛図、ポスターのような教科書がこちら。

全国の小学校で使われていたわけですから、本当に明治時代の多くの人々が学んだ図だったのでしょう。ただ、すでにさまざまな書物から学んでいた万太郎には、少し易しすぎたかもしれません。

ドラマでは、小学校のシーン以外にも、博物局にも貼ってあったような気がします。というのも、この博物図を作ったのが小野職愨(もとよし)、すなわち、田辺誠一さん演じる野田基善のモデルの方だからですね。ちなみに小野職愨は、1冊目に紹介した本草綱目啓蒙の小野蘭山の玄孫(孫の子)です。





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