I.P.A.
スマートフォンから流れている鳥の鳴き声は地下で聴くのにも関わらず本当の鳥が鳴いているかのような錯覚をもたらした。
ヤスオは噛み砕いた錠剤の安寧の中にあって、光る画面をタップする。
酔い潰れたヨウジの嗚咽、ぬるくなってしまったハイネケンをヤスオは飲み下す。
どうしてクラブに売っているビールはハイネケンと決まっているのだろうか。
先週、クラフトビール専門店で飲んだIPAは西海岸から輸入したと店員から聞いたが、とても美味くて西海岸の暮らしというものを羨ましく思ったのだけど。
ヨウジのために自動販売機でミネラルウォーターを買い、栓を開けて手渡す。
水って、英語で何て言うんだっけ。W.A.T.E.R. いや、W.A.T.O.R. まァいいや、どっちでも。
金魚鉢の中の金魚みたいに、死ぬ時に死因など取り沙汰されることはなく。
翌朝には世間の器官の一つとして、社会の中に混じる。
明日は晴れるだろう。鳥は鳴き、新しい一日の始まりを告げる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?