頓堀宿泊室 オンライン内覧会 全文
頓堀宿泊室が完成し、クラウドファンディングのリターン、オンライン内覧会で約70人の方にご参加いただき、完成披露の内覧会を空間デザイナー只石 快歩さんにしていただきました。
只石快歩 Kaiho Tadaishi
建築家/一級建築士
空間デザイナー
一級建築士事務所 艸の枕代表
頓堀宿泊室「えんとつ町のプペル」の世界観での宿泊施設です。
只石さんが頓堀宿泊室の魅力や世界観へのこだわりを存分に語ってくださいました。
こちらのnote記事は、ZOOMで行われた内覧会における只石さんの解説を文章に起こしたものです。
(※クラウドファンディング購入者限定のライブであったため、アーカイブはございません。)
全体の解説
まず全体の話で、どういった部屋になってるかというところなんですが、民泊なので、ホテルといった建物ではございません。
言ってみればマンションの1室をリノベーションしているという形です。
なので、普通のマンションの入り口を入るのですが……ドアを間違えると他の人の家です(笑)。
外から見たドアは完全に普通のマンションの1室という感じなので、何かしらの中間ゾーンを入れておかないと、コントラストが強すぎると思いまして、実際に泊まる部屋の前にえんとつ町の路地裏みたいなところを一旦通らせてから、部屋に入ってもらうのが良いのかなと思いました。
ここは部屋の面積的には無駄と言えば無駄なんです(笑)。
でもそれを作っておかないと、この宿泊室に入るのを楽しんでいただけないと思いました。
そこで考えたのが、玄関を入ったのになんで路地があるんだというところです。
これは玄関の扉を、マンションの外に出ることができる裏口と見立て、扉を開いたそこが隣の建物とのあいだにある空間という設計にしたからなんですね。
なおかつ、実際にはこの部屋は2階なのですが、中の世界では屋上にあたるので屋根の上に出てくるんです。この屋根つたいに進んでいったところに宿泊室があります。
えんとつ町の世界としては、“表に看板を出していない宿泊所”かなとボクは考えていて、この場所を知ってる人が隠れるように泊まるようなイメージなんですね。
ここはえんとつ町だということを、直観的に伝えるために、えんとつ町のアイコンになっている提灯や赤い電球を入口付近の目の留まりやすい位置に入れました。
それと大きかったのが、このリノベーションを行うにあたって、お風呂が普通のユニットバスだったこと。
この建物のリノベーション条件としてあったのが頭を悩ませました。
ユニットバスとこの世界をどう結び付けるかが大変で…最初は「ユニットバスか…」という感じでちょっと難しいかもと思っていたのですけど、さっきの裏口から入るというアイデアで、建物の間を入っていくという事は違う建物がそこにあるわけだから、、、
じゃあその違う建物の中はえんとつ町のテイストを薄めたらいいんじゃないかと思いました。
ユニットバスが“えんとつ町度0”だとしたら、ユニットバスに繋がっている洗面トイレが“えんとつ町度3”くらいにして、路地部分が“えんとつ町度5~7”くらいで、宿泊部屋が10。
といったようにグラデーションをかければ意外といけるんじゃないかと思ったわけです。
洗面所のほうは、これがえんとつ町か?と言われたら、えんとつ町にも見えるけれど、ちょっとビンテージ感があるカッコイイ洗面所なのかなといった具合ですね。
全体的なところとしてはこんな感じです。
内覧スタート
マンションの共用部があってからのドア、ここまでは普通ですが、入るとこの建物の裏口です。
今いる建物の裏口を“出て”いく感じです。
ここが先ほど言ってた建物に挟まれた空間です。
こちらのグレーのコンクリートの壁になっているのが、“湯洗所(ゆあらいじょ)”と言って水回りが入っている建物。
それからこっちの方が頓堀宿泊室の建物。
こちらのレンガの壁になっているのが、先ほどまでいた(ドア側)建物。
更にトタンになっているところも建物になっています。
つまり、全部で4つの建物に挟まれた場所に出てきました。
床も見てもらうと、屋根の素材のテイストにしてあります。
そして、この屋根の下の階からの給湯なのか、何かしらの(笑)…繋がっているパイプがあったりとか。
この壁なんかもこういう路地みたいなところなので、昔張り紙がしてあったり、何か落書きがあったりとか。
おそらく宿泊室をやるオーナーは、路地裏に来たところに、隠れ宿でありながら「こっちだよ」ぐらいには落書き程度に書いてある。
そして、外の世界なので、こういうえんとつ町らしい赤い照明があったりとか。
それからのこの雨どい。
この建物の雨どいがこう落ちてて、ずっと下にいくと雨が流れてたりとか。
水たまりが作ってあります。
あとは窓なんかも雨上がりくらいの塗装をしてある。
実際は濡れてはなくて、塗装で表現してます。
こっちが洗面所になるわけなんですけども、洗面所と書かないでここは「湯洗所」と書いたんですよ。
言葉は日本語でもなく、中国語でもない。
でも、ここはお風呂とお手洗いがあるのかなっていうのが分かるくらいの造語にしました。
こうすることで「湯洗所って何だろ?」ってなるじゃないですか。
そのちょっとした非日常の違和感をこういうところに練りこんでいってます。
照明のスイッチは「灯」と手書きしてます。
ここを開けたところ、こっちなんかは普通のユニットバスで、“えんとつ町度0”笑
ここらへんが洗面があったり鏡があったりするんですけども、ちょっとこういった配管とかでえんとつ町感が出てくるかなと。
このあたりのエイジング(壁の汚し)なんかも、先ほどの部屋ほどは汚くしていなくて、清潔そうな感じにしています。
あとはこういう水洗なんかも、ちょっと見慣れないものを選んでいたりします。
トイレの便器なんかもそうですけど、これを使いたいなって思ってたんですよ。この部屋っぽいから。
でも普通の日本メーカーのものよりちょっと高いんですよね…
で、どうしよっかなって思ってたんですけど、コロナ騒動で所謂TOTOとかLIXILのが入ってこなかったんですよ。
なので、使えるチャンスということで(笑)、これが使えたという感じです。
で、いよいよこちらの宿泊部屋になって、この扉なんかはビンテージショップで扱われていたものです。
1950年代のアメリカで実際に使われていた木製ドアですね。
それから、ゲストハウスなので、キッチンもついています。
キッチンに入ってきて照明をつけるじゃないですか。
こういう工業用のスイッチを使っていて、ガチャンと押すと照明が点きます。
このスイッチもなかなか使い慣れないものですけど、こういうものがやはり日常ではないですよね。
「ここ押していいの?」ってなります。
普段自分が住んでいる場所ではない世界に来てるぞという感覚です。
あと、どうしても必要な電気機器が出てきますよね。
ここでいうと、インターホン。
この建物指定のインターホンがあるのですが、そこにエイジングをかけても雰囲気は出ないし、そもそもエイジングしてはいけないので、「外部門電話機」と書いたカバーをして、この中にインターホンを設置しました。
何もかもを作り上げてしまうと、作り物感が強くなってしまいますので、上手に日常のものと、非日常の見慣れないものを織りまぜて、現実の世界をファンタジー化していきます。
このキッチンは足元を見てもらうと分かるんですけど、飲食店の厨房によくある業務用のものを使っています。
その上に鉄板を置いて、なおかつここは奥行きに違いを出しています。
コンロは火事がこわいので、IHを選んでいます。
最新機器のIHがメカメカしくないようにしたかったので、この奥行きの違いに視線がいくようにしてその存在感を薄めました。
そして、この横に給湯器のスイッチを隠してあります。
これも丸見えだと日常があからさまなので、カバーをしました。
いよいよ宿泊室ですが、大人2名用(セミダブル×2)のベッドがあります。
設計していく中で難しかったのが、ここが宿泊施設の「居室」であるということ。
スナックCandyのように飲食店であるとか、ZIPのような会議室であれば、鉄板とかがむき出しになっていてもそれほど違和感がないじゃないですか?
そこにあって必要なものに見えますから。
でも、宿泊施設の「居室」には配管ってたくさん露出していないじゃないですか。
えんとつ町といえど。
絵本の中でも、室内というのはあまり描かれていないんですが、それでも絵本をくまなく見て、こういう町にはどういう物が、どういう部屋があるのかを考えて想像してって、それが一番難しかったです。
西野さんともお話しして、部屋によくあるのって壁に絵を飾ることなんじゃないかと。
えんとつ町の風景画を飾ったら、えんとつ町の部屋になるんじゃないかというところで、大きな絵を飾ることにしました。
あとは、もちろんエアコンも必要になってくるわけですが、、この中に普通の新しいエアコンが入ってるんです。
それを、えんとつ町にありそうなエアコンのデザインをしたカバーでおおっています。
ボクが設計をはじめた頃は、主に住宅の設計をしていたんです。
若手建築家が設計しそうな(笑)シンプルでナチュラルな住宅を設計していたんですけど、エアコンを隠す手法でよくやっていたのが、縦格子をエアコンの前に設置するデザインでした。
エアコンの存在を消す手法としてよく使われるんですけど、それがずっと気になっていて、格子で隠してはいるけど、部屋にそんなものがあったら、エアコンを隠しているということを逆に主張してしまっているんじゃないかと、それがずっと違和感として持っていたんですね。
そして、ここでまたそのエアコン問題にぶつかりまして、「どうしよう」と…
壁に埋め込んでしまうとかも思ったんですけど、そのスペースを取れるほど広くはない部屋なので、エアコンはエアコンとして見せるしかなくて、なにか良い解決方法はないかなと思い、エアコンのカバーを格子ではなくて、エアコンそのもののデザインにしてしまえばいいんじゃないかと考えました。
えんとつ町テイストのエアコンデザイン。
昔、“家具調家電”ってあったじゃないですか?
テレビや冷蔵庫とか木目のデザインがほどこされた家電。
あれがもしかしたら使えるんじゃないかと思い“家具調エアコン”をリサーチしまして、アメリカの1940年代に実際にあったエアコンがえんとつ町に馴染みそうだったので、それをモデルにして、このようなエアコンカバーを作りました。
通気口も同じように気配を馴染ませました。
マンションとか見かけますよね。
自然換気のため、これを設置しています。
これもこのままだと日常感が強いので、カバーをしています。
ありそうじゃないですか、こういうカバー。
ここはデスクになります。
窓があって、路地にあたる外の景色が部屋から見えるということで、うしろのベッドに横になったときも、えんとつ町にいる感覚になるようにレイアウトに気を配ったところです。
デスクの照明器具は、どこにも売っていない製作したものになります。
むかしの虫カゴを加工して作りました。
網の部分が開くようになっていて、ここを開けて虫を入れるんです。
これを上下さかさまにして電球をつけて照明器具としました。
デスクはくぼんだところにありますので、集中できる作業スペースにもなりますね。
イスに座ってここから部屋側をながめた時に、レンガの柱や、桟をいれた窓などが目に映って「えんとつ町にいるな」という感覚になるとうれしいですね。
こちらが先ほど話した風景画です。(この油絵は是非実物をご覧ください。)
えんとつ町の景色を描いた絵です。
だけど、絵本に出てくる絵をそのまま描いているわけではなくて、えんとつ町のどこかの景色を想像して描いてもらいました。
えんとつ町の画家が描く風景画は、どういう瞬間を描くだろうなと考えました。
※ここから先は一部、映画えんとつ町のプペルのネタバレを含みます。
どういう景色を描きたいかなと思ったときに、映画のストーリーで無煙火薬で煙を晴らすシーンがあるのですが、それってえんとつ町の世界では、ベルリンの壁が崩壊した以上の歴史的な瞬間なんじゃないかと思うんですよね。
ずっと抑圧されていた社会からの解放の瞬間というか、「夢を持っていいんだ。希望を持っていいんだ。」という瞬間。
そんな歴史的な瞬間というのは、絵のモチーフとしてとりあげられやすいんじゃないかなと画家の方とディスカッションして、その瞬間を絵にしてもらいました。
以上がオンライン内覧会の内容となります。
皆さまいかがでしたでしょうか?
あとは是非現地にて実物をご覧いただいて、えんとつ町の隠れ宿を体感いただければと思います。
ご予約はこちらまで、よろしくお願い申し上げます。