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【コラム】10穴ハーモニカ教室の出発!【ハーモニカ】

 不安は、22歳の若い深沢剛さんに講師を引き受けてはもらったものの、タウン紙に受講者募集の告知を掲載しただけでいったい何人集まるだろうかということだった。

「あなたもハーモニカを楽しみませんか 愛川町でブルースハープ講習会」そんな呼びかけが記事になって新聞に折り込まれたのは1994年の正月明けだった。説明会は2月12日、土曜日の夕方6時半。会場は当時本屋だったわが店の裏手にある樹人館というウッディハウスで、オーナーはわが店の顧客だった。

 月2回、土曜日の夕方、同時刻から同会場で教室を展開する計画だった。いの一番に問い合わせ電話が60代の男性からあった。うんと若い人からの反響を期待していたのが……。42歳だったぼくにすれば60代はずいぶんなオジさん、複音ハーモニカと勘違いしてないだろうかと心配になる。

「あのお、ブルースハープと言って……」

 電話口でおそるおそる講釈をたれると、10穴ハーモニカは既に持っているというし、吹き方やテクニックを学びたいのだと。ふむふむ。そのうちに若い女性からもたて続けに電話があってホッとした。

 いよいよ説明会という2月12日の朝は10年ぶりの大雪に見舞われた。夕方にはやんだものの、近くの鉄塔が倒れるほどの積雪で、車で来られない人がほとんどなので急遽、26日に延期することにした。雪で気が変わって、ハーモニカはやはりよそうなんて言い出す人がいなければいいと一人、気を揉んだ。しかしそんな心配は杞憂だった。26日には10数名の希望者が集まり上々の出発ができた。

 そもそも樹人館は、町の文化的な拠点があればいいね、というぼくの提案を受けて、オーナーのKさんが一年もしないうちに建ててしまった2階建てのウッディな小屋だった。1階に大きなテーブルを囲んで50人は軽く収容できるフリースペース。その後、ここに中古ピアノも運び込み、続木力さんの単独ライブをはじめ、松田幸一さんや妹尾隆一郎さん、八木のぶおさんなどの熱いライブを連発することになるのだった。

 講習は美味しいコーヒーとともに、深沢さんの生演奏が聴ける贅沢な時間だった。

(2022.1 ハーモニカライフ95号に掲載)

岡本吉生
-Profile-

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日本唯一のハーモニカ専門店「コアアートスクエア」の代表。教室を主宰するほか、1996年にはカルテット「The Who-hooo」を結成。全国各地に招かれて演奏活動を続ける。
コアアートスクエア(月曜定休)
〒243-0303 神奈川県愛甲郡愛川町中津3505
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●コアアートスクエア Webサイト
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