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【ハーモニカ仁義】 初心に戻って反復練習【仲村哲也】

仲村哲也(TEX NAKAMURA)の『ハーモニカ仁義』
第5回 初心に戻って反復練習 前編
第6回 初心に戻って反復練習 後編

前編

私が本格的にブルーズハーモニカを演奏しようと思った頃、故妹尾隆一郎さんに師事し、最初に叩き込まれた事は以下の様な内容でした。それは自在に息をコントロール出来るようになる為の基本的な練習法です。

先ずハーモニカを吹く前に呼吸法を身に付けます。姿勢をただし(重要)、下っ腹にグッと力を入れ、舌の先端を下の歯の根元に押し付け、硬くしておきます。丁度、ストローで水などを飲む時の形状でしょうか。その硬くした舌に吸った空気を当てながら深呼吸をする様に苦しくなるまでゆっくり息を吸っていきます。限界まで来たら一気に吐き出さず、慎重に出来るだけ細く長くゆっくり吹いて息が続かなくなる限界まで吹き続けます。下っ腹と舌は同じ状況を保っています。それを何度も根気よく繰り返します。

次にハーモニカを唇にあてて、同じ呼吸法で音を出します。

テンホールの場合は1番と2番の穴だけを特定して双方のリードが均等に鳴るよう同様に吸って吹いてを繰り返します。その時、消音から最大音量まで、又、最大音量から消音まで、緩やかな曲線を描く様にイメージしてその2穴がどの音量でも良く鳴るように反復練習します。

最初は出来るだけ遅いテンポで1.2.3.4と足や体でカウントを取りながら、2小節長く吸っては2小節長く吹きます。吸う時は下っ腹に力をいれたまま徐々に前にせり出し、吹く時は内側にゆっくり押し込んで行く様なイメージです。それが後に腹式呼吸の基盤になるので、ジックリ時間をかけて体に覚え込ませます。それに慣れたらカウントに合わせて「吸う吸う吸う吸う、吹く吹く吹く吹く」と反復します。それはリードのリスポンス(音の立ち上がり)を最大限に引き出す為の基礎になります。テンポはまだ遅いままで行い、吸った空気で舌の中心が乾くまで繰り返します。

10ホール

(2020.4 ハーモニカライフ88号に掲載)

後編

前編で述べた呼吸反復練習で、今度は1小節吸って又1小節吹きます。ゆっくりとしたテンポは、まだそのままです。音量は段々大きく吸ったり、小さく吹いたりして音量をコントロール出来るまで辛抱して反復練習します。ある程度音量が自然にコントロール出来る様になったら、普通に歩くテンポまで徐々に上げて行き、シツコク反復して体に覚え込ませます。

そこまで来たら、2拍づつ吸っては吹き、吸っては吹きを繰り返します。「吸う吸う、吹く吹く」と言う感じでしょうか。前編で述べた様にリードのレスポンス(音の立ち上がり)を念頭に起きます。それに慣れたらアクセントをつけて「シャッフル」と言う名のリズムにのって延々とそれだけを反復練習します。「シャッフル」はシカゴブルーズは勿論の事、多くのジャズやR&B、そして日本の民謡などにも古くからあるリズムです。私が子供の頃に某味噌TVコマーシャルで見たミコちゃんが歌う「シュッシュッ、ポッポッ、シュッシュッ、ポッポッ」がまさにそれです。(シンコペーション)そのリズムを感じながら演奏するのは、将来アドリヴ演奏やソロ設計をする上で必要不可欠です。

カッコいいフレーズや速吹きは後で幾らでもお好みで学べます。先ず息を自在にコントロールして楽器自体を最大限良い音で鳴らし、シャッフルビートに乗って演奏するというのが、妹尾メソッドの真骨頂です。

室内ではそのテンポを常に足で刻みながら練習していましたが、その後は独自の考えで実際に歩いている時も同じ様に演奏していました。乗って演奏(グルーヴ)するのはとても重要です。まわりの人等には奇人の徘徊に見えたと思いますが、その当時、体に叩き込んだお陰で演奏に安定した持久力がつき、踊りながらでも息途絶えることなく長時間演奏できる様になりました。現在でもウォーキング時には同じことをやっています。笑。

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新品のハーモニカを同じ様に演奏しておくと、良く共鳴する様になり長持ちもします。コレは新車の慣らし運転と同じ理屈です。それも故妹尾師匠のお言葉でした。

(2020.7 ハーモニカライフ89号に掲載)


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仲村哲也 (TEX NAKAMURA)
-Profile-

1980年代始めまで、自己のバンドでエレクトリック・ベースを担当していたが、1950年代のサウンドに取り憑かれ、アップライト・ベースに転向。
1983年に、FENから流れてきたJ ガイルズ・バンドの「ワーマージャマー」に衝撃を受けハモニカを手にする。
妹尾隆一郎氏に師事し基礎のテクニックを収得。その後は、「F.I.H.ハモニカコンテスト」入賞、アポロシアターのアマチュアナイト・チャンピオンシップに出演(日本人初)するなど、数年の間にトップクラスのハーピストとして活躍する。
以後国内でスタジオミュージシャンとして数多くの録音に参加。1992年渡米。
西海岸人気ファンクバンド「WAR」にリーオスカーの後釜として抜擢され、年間平均100本ワールドツアーに13年間参加。Tex NakamuraやWeeping Willow(咽び泣く柳)の名で、現在も米国ロサンゼルスを拠点に幅広い音楽性と美しい音色で活動中。

●オフィシャルWebサイト
http://blueslim.m78.com/nakamura_tetsuya.html