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【コラム】28年前の深沢くん【ハーモニカ】

 10穴ハーモニカの深沢くんが三味線の尾上秀樹さん、ギターの朝井泰生さん、ピアノの安齋孝秋さんとでニューアルバム「1st Travellin’」をリリースした。メンバーの頭文字をとってF-O-A2というユニットの第2弾だ。ハーモニカと三味線、異色の組み合わせで繰り出される音楽はどこか懐かしい日本の音楽や、ときに異国の音楽のよう。気負いなく流麗で心地よいハーモニカ。テンホールズはやはりいい。思えば深沢くんもあの時のぼくの歳をとうに超えた。

 深沢くんこと深沢剛さんが、「テンホールズ教室」の講師としてわが店にやってきたのは1994年2月のことだった。17歳でハーモニカを始め、F.I.Hコンテストに入賞。1993年、ドイツで開催された世界大会ではフォークカントリー部門で第2位入賞。それを新聞で知ったのは9月だった。近い町にそんな人がいる? 複音しか吹かないぼくが10穴ハーモニカの音色に惚れ込んで、基礎から勉強したいと思っていた矢先の吉報だった。

 早速、新聞で知った居住地を頼りに電話番号簿を片手に深沢姓の家に片っ端から電話した。2、30件ほどはあったがそのどれもがハズレだった。その年の暮れ、「厚木ハーモニカトリオ」と森本恵夫さんのライブがわが店の近くで催され、ライブ終演後に打ち上げがあった。ひょっとしたら誰かが深沢さんをご存知かも知れない。その席で大矢博文先生に「深沢剛という人を知っていますか」と尋ねた。

「ああ知ってるよ。深沢の電話番号ならほら」と手帳を取り出して即座に教えてくださった。翌日、勇んで電話した。新聞には年齢など書かれてなかったので彼の歳など知る由もなかった。

 間もない日の夕方だった。一人の若者が店の扉を開けて「深沢です」と入ってきた。内心、こんなに若い人なのかと40歳のぼくは戸惑った。話せば、見かけによらずしっかりとした好青年だった。
「テンホールズの講師をお願いできますか」
即決だった。後でわかるのだが深沢くんはまだ二十歳を過ぎたばかりだった。(次回に続く)

(2021.10ハーモニカライフ94号に掲載)


岡本吉生
-Profile-

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日本唯一のハーモニカ専門店「コアアートスクエア」の代表。教室を主宰するほか、1996年にはカルテット「The Who-hooo」を結成。全国各地に招かれて演奏活動を続ける。
コアアートスクエア(月曜定休)
〒243-0303 神奈川県愛甲郡愛川町中津3505
Tel:046-286-3520

●コアアートスクエア Webサイト
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