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【コラム】「六甲おろし」を演奏した日w

阪神タイガースが巨人に4対3で勝って18年ぶり6回目のセ・リーグ優勝を果たした。18年間、一心不乱に戦ってリーグ1位の悲願が達成された9月14日、選手たちの胸にはさまざまな想いが去来したことだろう。

その晩はコンサートの打ち上げで、テレビのニュースは観られなかった。翌日、新聞で歓喜する人たちの写真をみて自分ごとのように嬉しくなった。というのも、優勝を決めた日の数時間前、「第25回コアハーモニカコンサート」があり、コンサートの締めくくりに「愛川ハーモニカアンサンブル」は阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」を演奏したばかりだった。

前日までアンコールは別の曲を考えていた。この日に勝てば阪神優勝との情報を得た。よし「六甲おろし」を演奏しよう。間際の決断だった。この曲は10月の板橋でのコンサートでも演奏しようと、夏の間、練習を重ねてきた。メンバーのなかには熱い阪神ファンもいた。阪神の快進撃は僕たちの応援あってと本気で思ってもいた。

コンサート前日、急遽メンバーには「六甲おろし」で使うハーモニカも持参するようLINEした。

本番の大トリだった。時計は5時を回っていた。コンサートはあまりにも時間が押していた。最初に決めていた曲だけで終えようか、ステージに出るまで迷いもあった。

2曲のプログラム曲を演奏し終えた。客席のお客様は誰一人立ち上がらず拍手とブラボーを叫ぶ声も聞こえる。声援に応えてマイクを握った。アンコールを演奏させていただく旨と、今晩、ひょっとしたら阪神が優勝を決めるかもしれないこと、ここに阪神ファンがいらっしゃるかを問いかけた。客席からは両手をあげて阪神ファンをアピールする人がいた。

俄然、アンコール曲に加え「六甲おろし」も演奏することに決めた。短いスピーチでそう伝え、まずはアンコール1曲目に続けて「六甲おろし」を演奏した。メンバーたちも生き生きとした音を紡いでくれた。手拍子が演奏に寄り添って高鳴った。

「これで阪神は優勝します!」会場は大いに沸いた。

 白球の行方に一喜一憂して勝敗を競う。醒めた見方をすれば他愛のないことかもしれない。だが一球に賭ける真摯さは野球好きでなければ理解の及ばないことだろう。ピッチャーの投じる一球には魂がこもる。打者の打つ一球にも、捕球にも。「一球入魂」、だから野球はあれだけの人の心を動かす。音楽も「一音入魂」。さて、次なる演奏に「一音懸命」で向かわねば。

(2023.10 ハーモニカライフ102号に掲載)

岡本吉生
-Profile-

日本唯一のハーモニカ専門店「コアアートスクエア」の代表。教室を主宰するほか、1996年にはカルテット「The Who-hooo」を結成。全国各地に招かれて演奏活動を続ける。
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