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第21話 妻の話-店にいた猫

もう一つ猫の話を。

妻の母親は若いころ、スナックを経営していた。

店を始めるにあたって借りた物件には、客席とカウンターの他、小さなバックヤードのような部屋があった。

以前も同様のお店だったのだろう。その部屋には大きな姿見があって、身支度をするのにも便利だった。

当時小学生だった妻は、最初に訪れた時から、その店が嫌いだった。

「バックヤードは特に、暗くて風通しが悪くて、それに……」

猫の霊がいたのだ。

悪さをするわけではないが、猫は見知らぬ人が来ることを嫌っているようだった。

妻はそのことを母親に告げたが、母親は「霊なんていない」と信じない。

そんなある日、顔見知りのお客さんから、泊まるところがないので数日そこで寝られないか、と頼まれた。

バックヤードなら、好きに寝てくれてかまわない、と提供したところ、翌日にはすぐに出て行く、という。

「なんかおるで、ここ」

それまで、霊など見たこともないし、信じていない、という人の言葉だけに、妻の母親も不気味なものを感じたのだろう。不動産屋に問い合わせてみた。

以前も同じように店をやっている女性がいた、と不動産屋は教えてくれた。
その女性はもう亡くなっていて、お店をやっていた当時、愛猫をよく連れてきていたという。

妻の母親が借りる前に、店内を改装したので、そのときから残されているのは、バックヤードの姿見だけ。

それを聞いて、鏡を撤去したところ、猫の霊はいなくなった。


「自分の縄張りに知らない人が来ることが、嫌だったんだろうね。なんか、追い出しちゃったみたいで、かわいそうだった」妻はそう言う。

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