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第58話 友人の話-おかえり

キノシタさんはお祖母ちゃん子だった。

「両親が共働きだったので」

幼少時から、同居しているおばあちゃんが面倒を見てくれた。
母親よりもおばあちゃんが好きだったという。

「学校から帰ると、いつも『おかえり』って迎えてくれて」

どんなに嫌なことがあっても、その声を聞くと元気を取り戻せた。

そんなお祖母ちゃんば亡くなったのは、彼女が小学2年生のときだった。

大きなショックを受けたキノシタさんは、お祖母ちゃんの死を上手く受け止めることができなかった。

「本当に起きたこと、って思えなくて」

それでも、帰宅して静まりかえった家の玄関を開けるときには、「ああ、死んじゃったんだな」と涙がこぼれた。

ある日、キノシタさんは学校で友だちと喧嘩をした。

「ただいま」
帰宅して玄関を開けると、思わずその言葉がこぼれた。

「おかえり」
誰もいないはずの家の中から、声が応えた。

大好きな祖母の声だった。

お祖母ちゃんは死んでいなかったんだ!
うれしくなったキノシタさんは、靴を脱ぎ捨てると、家の中に駆け入った。
部屋中を探し、押し入れまで開けたが、祖母の姿はなかった。

ただ、その日以来、キノシタさんはうちに帰ると必ず、「ただいま」と言うようになった。

ときどきだが「おかえり」の声が聞けたのだ。
たいてい、キノシタさんが落ち込んで帰宅したときだった。

「中学くらいまで続きましたね」

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