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第11話 妻の父の話-ユネスコ会館

人を呪っても、日本では罪に問われない。
深夜、誰かの名前を書いたわら人形に釘を打ったとしても、それを禁じる法律はない。

日本の法制度は、呪いや心霊現象の存在を認めていないのだ。

もちろん警察や検察もその「原則」に従って活動している。
だが現場で働いている個人は、実際にはどう考えているのだろう?


妻の父親は警察官だった。
学生のころ、妻はその父親に「ユネスコ会館だけは行くな」と言われていたそうだ。

問題のユネスコ会館は、関西でも有名な心霊スポットである。

建てられたのは、半世紀以上も前のこと。
留学生や登山客が利用する施設だったが、経営難のため売却され、その後廃墟になった。

芦屋市の山中にあり、関西では肝試しのメッカとして知られていた。

あちこち遊び歩いている娘が、なにかのはずみで訪れのでは、と義父は心配だったのだろう。

ただ、関西には同様の肝試しスポットが数多い。
そんな中、なにゆえ「ユネスコ会館だけは……」なのか?

「あそでは、本当におかしなことが起きるんだ」
詳しくは語らなかったが、義父はただ、そう説明しただけだったという。

地元の警察に勤めていた義父は、どんな「おかしなこと」を見聞きしたのだろう?


残念なことに、ぼくが妻と知り合った時には、すでにこの世の人ではなかったため、話を聞くことはできなかった。

ユネスコ会館は数年前に取り壊されて、今はもうない。

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