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第41話 noteフォロワーの話-地に憑くもの

アキノさんの義姉が家を買ったことがあった。

大きな池の近くにある中古の一戸建て。
一目で気に入り、契約を決めた。

築年数の古い物件だったが、リフォームしてみると、とても素敵な住まいになった。
2人いる子どもたちも大喜びだが、アキノさんは当初から不気味なものを感じていたという。

近くに住んでいることもあり、引っ越しの手伝いを頼まれた。
当日、所要を理由に断った。
姑から不興を買うことはわかっていたが、どうしても行きたくなかったのだ。

引っ越してすぐ、義姉の様子がおかしくなった。
訪ねた姑によると、顔色がすぐれず、ドス黒く見えたという。

「体調が悪くて、晩ご飯も作れないらしい」

ひんぱんに夫婦喧嘩をするようにもなった。
それまで仲の良い夫婦だったのが、嘘のようだった。

引っ越しからしばらくして、隣家の奥さんが急死した。
家族が朝見に行ったら死んでいた、と聞いた。

アキノさんも一度だけ、断れない用事があり、義姉の家を訪れたことがあった。
結局、気分が悪くなって家に上がることはできず、玄関先で引き返したのだが、その際、気になるものを見た。

向かいの家の玄関先に盛り塩があったのだ。
新築で、住んでいるのは若い夫婦だった。

「古風なことを……」
ゾクリとするような違和感と正体のわからない恐怖を感じたという。

その後も義姉と夫の夫婦喧嘩は激しさを増し、義姉の体調も悪化していった。
子どもたちの怯えようもひどい、とアキノさんは姑から聞いた。

家になにかあるのでは?
親族にはそう考える人もいたようだが、なにせ高価な買い物だ。
子どもも家のために転校させている。

せっかくリフォームまですませた家を捨て値で放り出す、という決心はなかなかつくものではない。

「クローゼットに怖い人がいる」

一家の男の子が、そう言い出したことで、事態が変わった。
その家の玄関脇には大きめのクローゼットが設けてあった。

気がつくと扉が開いていて、髪の長い女性が家の様子伺いながら、ニタニタ笑っているという。
引っ越し当初から気づいていたが、せっかくの新しい家でもあり、言い出せなかったのだ。

思いあまった義姉と夫は、親戚の住職を訪ねた。
親族の中では「力のある人」として知られている人物だ。

「どうにもならない」
住職はそういった。

人に憑く霊は祓えるが、土地に憑くものは難しい。

新居の近くには古い池があり、恨みを含んだ女性の霊がいる。
その念に惹かれて、多くのよくない霊が集まるため、土地自体がひどく穢れてしまっているのだという。

調べてみると、池で入水自殺した人が多数いることがわかった。
すべて女性だった。

「女に仇なす霊だ」

隣家の主婦が急死したのもそのせい。
住み続ければ、義姉の命も危ないという。
結局、義姉一家は家を売り払い、離れた場所にある小さなマンションに引っ越すことを決めた。

夫からその話を聞いて、ホッと胸をなで下ろしたしたアキノさんだったが、その夜、夢を見た。

一度だけ訪れたことのある、義姉宅の近所を歩いている夢だ。

「空がテレビの砂嵐みたいでした」

ふと気がつくと、目の前に髪の長い女がいた。

「お前は来るな」
しわがれた声でそう告げると、女は消えた。

義姉の子どもが見たのと同じものだ。
直感的に、アキノさんは察した。

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