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第31話 自分の話-割れる

もうずいぶん昔の話になる。

祖父の一周忌 ガラスの鉢が割れた。

供物を入れるため、仏壇に置いていた大鉢だった。
そのときは、リンゴやミカンなどの果物が入れてあった。

一周忌の朝、法事の準備をしていた祖母が見つけた。

鉢は、床に落ちていたわけではない。
ただ置いてあったその場所で、真っ二つに割れていた。

「おじいちゃん、なにか言いたいことがあるのかねぇ」

法事にやってきた僧侶に事情を話してみたところ、特にそういうわけではなかろう、という。

母方は浄土真宗だ。
この宗派は幽霊を認めていない。
死んだらみんな極楽浄土。霊などない、というのが基本姿勢なのだ。

「偶然ですよ」
中年の僧侶はそう言って笑った。

まだ子どもだった私は、「そんなはずないやろ」と思った。
大人になった今なら、温度変化などによって、ガラスの鉢が割れることもある、と知っている。

だがかなりまれな出来事だ。
以来、20年以上たつが、ガラスや陶器の製品がその場で真っ二つに割れる、という現象はこれまで一度も見たことがない。

それが祖父の一周忌の日に起きた。

偶然と解釈するのは、かなりしんどい気がする。

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