第17話 友人の話-よくあること
看護師をしている五木さんによると、夜勤はやはり怖いという。
消灯してから朝までの間に、何度か病棟の見回りをしなければならない。
懐中電灯を頼りに、真っ暗な廊下を歩き、入院患者の様子を確認して回るのだ。
「たいていの病院には、出る、という噂があるから、いちいち気にしてられないんだけど……」
看護学校を出てすぐ、五木さんが働くことになった病院では、日によって階ごとの見回り担当が決められていた。
今日は○○さんが内科病棟の3階、4階は××さん、といった具合である。
その日、五木さんは内科病棟の3階担当になった。
深夜、定時になると、見回りを始めたが、勤めてまだ日も浅かったため、手間取ることが多く、巡回ははかどらなかった。
それでも、「コの字型」の病棟を進んでいき、もう少しで半分、というところまで来た時のことである。
ふと、窓越しに白い人影を見つけて、五木さんは喜んだ。
同じ階の廊下を歩くナース服の人影は、病室のドアを開けて入り、しばらくすると出てきた。
さらに隣の病室に入り、また出てくる。
「先輩の誰かが手伝いに来てくれた、と思ったのよ」
このまま両側から進めていけば、かなり早くに巡回を終わらせられる。
だが喜んだのもつかの間。五木さんは3階の端まで巡回したが、「親切な先輩看護師」と出会うことはなかった。
ナースステーションに帰って、訊ねてみると、誰も手伝いになど出ていない、という。
それなら、不審者では?
顔色を変える五木さんに、先輩看護師たちはカラカラと笑うだけだった。
「ときどきあることだから、って言ってた。まあ本当に、そうなんだけどね」
今ではベテランナースと呼ばれるようになった五木さんは、そう言って、カラカラと笑った。
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