第37話 友人の話-きっかけ
「それまでは霊なんて信じてなかったのに」
シミズさんは大学生になって始めたファミリーレストランのアルバイトがきっかけで、見えるようになったという。
「真夜中のシフトに入ることが多かったんです」
深夜時間帯は、まかない付きの上、バイト料もよかったのだ。
おまけに客も少ない。
夜のアルバイトは楽して稼げるよい仕事だった。
ある夜、3人連れの客が入ってきた。
男性2人と女性1人だった。
「ひどい雨降りの日でした」
シミズさんがお冷やをテーブルに置いて戻ると、バイトリーダーが彼女を呼び止めた。
なぜ、3つ置いてきたのか?
そう訊ねられて、シミズさんは意味がわからなかった。
「3人連れだから、お冷やを3つ置いただけです」
そう答えると、リーダーは表情を強ばらせたまま厨房を出て行き、お冷やのグラスを一つ回収してきた。
シミズさんが再度見に行くと、席に着いているのは男性2人だけだった。
それまでに霊など見たことがなかった彼女は、背筋がゾクゾクするのを感じながらも、「ああ、あれが霊というものなのね」と少し感動したそうだ。
後でバイトリーダーに聞くと、その客は常連だという。
近くにある葬儀会社で働いており、市内の病院で急死者が出たときなどには夜も働くため、深夜にやってくることが多いらしい。
「たまに、君みたいなのがいるんだよなぁ」
リーダーは渋い顔でそう言った。
以前も、まだ新しいアルバイトが、お冷やを多く置いたことがあったのだそうだ。
ただ、葬儀会社の人たちは慣れているらしく、特に騒ぐことはないという。
ああまたか、という顔をするだけで。
シミズさんはその後も何度か、2人が「誰か」を連れて入ってくるのを見た。
お冷やの数は間違えなかった。
わかるようになったのだ。
「よく見ると、どこか雰囲気が違うから」
困ったのは、最初に見て以来、他の場所でもときどき、見るようになってしまったことだった。
いいことはない。
できれば以前に戻りたいが、その方法がわからない。
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