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第68話 友人の話-クワガタ
クボタくんは霊の存在を信じるという。
「見たことはないねんけど」
小学生のころ、クボタくんはクワガタ捕りにはまっていた。
住んでいた街は、大阪北部の住宅街だが、街の北側に連なる里山に入れば、カブト虫やクワガタが捕れた。
「早起きが辛いねん」
それでもクボタくんは学校が夏休みに入ると、友人と連れだって毎日のように山へ行き、クワガタを捕った。
ただ、それだけ頑張っても、いつもたくさん捕れるわけではない。
ミヤマクワガタは、ほぼ毎日のように捕れたが、ノコギリクワガタが捕れることは少ない。
さらに希少なオオクワガタともなれば、一夏に1匹捕れればよい方だった。
「それが一度だけ、ノコギリ12匹に、オオクワガタ3匹も捕った日があってん。ミヤマはもう数えられんかった」
その日は朝からどんよりとした曇り空だった。
早朝、まだ薄暗い中、友人2人と山に入ったが、さすがに雨が降るようなら、途中で帰ろうと決めていた。
クワガタ捕りを始めてすぐ、そんな気は失せた。
その日に限って、なぜか大量に捕れたからだ。
「いた! またいた!」
友人も大はしゃぎで、虫に誘われるように、山の奥へ奥へと分け入っていく。
普段なら足を踏み入れないような、雑木林の奥まで進んだところで、不意にクボタくんは固まった。
顔の前を大きなスズメバチが通り過ぎたのだ。
1匹ではない、複数のスズメバチがあたりを飛び交っていた。
虫取りをしていると、しばしば出会うので、それほどの恐怖感はなかった。
うっかり巣に近づくと襲ってくるが、そうでなければハチの方から刺しに来ることはほとんどない。
さらにいえば、そのとき出会ったスズメバチは、なにやら上機嫌な雰囲気があった。
「お食事中やってん」
スズメバチが群れ飛ぶ先を見ると、巨大なテルテル坊主のようなものが木からぶら下がっていた。
スーツを着た男性の残骸だった。
灰色に溶け崩れた肉に、スズメバチやハエ、それに名も知らぬ虫たちが群がっていた。
家に帰り親に告げると、すぐに警察が呼ばれ、大騒ぎになった。
「クワガタは、そのおっさんがくれたんやろな」
見つけてほしくて、自分たちを誘い込んだのだろう、とクボタくんはいう。
数日後、その年に捕ったクワガタはみんな、山に放してやったそうだ。
「なんや、かわいそうやったから」
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