第6話 自分の話-手振り地蔵
霊を見たことはない。
怖い話が好きで、人に出会うと、つい体験を訊ねてしまうのだが、ぼく自身は、生まれてこの方、一度も不思議なものなど見たことがない。
そんなぼくが学生時代に体験したことを話してみたい。
男子大学生というのは、バカなことが大好きな生き物だ。
ギャンブルと女性が好きで、さらにバカが極まると、肝試しなんかも大好きだったりする。
真夏のことである。
ぼくは友人4人と、中古の小型車にギューギュー詰めになって、とある墓地を目指していた。
関西に住んでいる方なら、知っているかもしれない。
兵庫県の山中にある某墓地には、「手振り地蔵」と呼ばれるものがあって、怪奇スポットとして名をはせている。
初めての手振り地蔵に、バカ3名、女性2名の車中は、大盛り上がりだ。
ただいざ到着してみると、その雰囲気は一気に冷え込んだ。
夏の暑さなどどこへやら、である。
「手振り地蔵」は、実は地蔵ではない。
小学1年生くらいの男の子を模したブロンズ像だ。
台座の上に乗ったその像は、左手にボールを抱え、足下にはうさぎを従えている。
そうして、右手を高々と上げているのだ。
聞き及んだ話では、深夜に人が訪れると、その右手を振るという。
ぼくらにも手を振ってくれるのか?
想像するだけで、背筋がゾクゾクしてくるというものだ。
だがいくら待っても、ブロンズ像は手を振ってくれない。
わかっちゃいたけど……。
「つまらないな」とぼくが胸の内でため息をついた瞬間、隣にいた友人がボソリと呟いた。
「手、振ってる」
あわてて像を凝視してみたが、やはり手など動いていない。
「本当だ、振ってる、振ってるよ!」
女の子の1人が同調する。
さらにもう1人も。
ついでにバカのもう1人もやはり、手を振っていると言いだした。
「冗談やめろよ」
そうは言ってみたが、彼らがジョークのつもりで言っているのかどうかは、声色でわかる。
結局、ぼくともう1人のバカをのぞく計3人が、「地蔵が手を振っているところを見た」ということになった。
何度も言うが、手は振っていなかった。
……と思う。
ここで公開している話は、そんなぼくが聞き集めたものだ。
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