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第29話 友人の話-自販機

友人のミシマくんは、自販機が苦手だ。

あるとき、その理由を語ってくれた。

「おかしいと思われるから、人に話したことはほとんどないねん」

彼がそれと遭遇したのは、大学生のころだったという。

ゼミ仲間との飲み会から帰る途中。
喉の乾きを覚えた彼は、たばこ屋の前に置いてある自販機に硬貨を入れ、ボタンを押した。

ペットボトルが落下するゴンっという音がしたので、取り出し口に手を入れた。

その手を誰かにつかまれた。

「女の手やったと思う」
どちらかというと小さめの手だった。

その細く冷たい指が彼の手首に食い込み、次の瞬間、グイグイと引っ張り始めた。
自販機の中にミシマくんを引きずり込もうとするかのように。

「ビックリしすぎて、もう声が出ぇへんねん」

ただ必死に足を踏ん張り、ミシマくんは自販機から手を抜こうと頑張った。
深夜である。
住宅街にあるたばこ屋の前を通りがかる人はおらず、救いを求めることもできなかった。

「助かったのは、夏やったからかもしれん」

数分に渡る格闘の末、いきなりミシマくんは後ろにすっ飛んで転倒した。
腕に浮き出た汗のせいで、彼の手首をつかんでいた「手」が滑ったのだ。

ミシマくんの手には、その自販機で購入したスポーツ飲料のボトルが握りしめられていた。

「飲み過ぎて幻覚を見ただけやろ」
翌朝起きた時には、そう思ったそうだ。

だが、ふと右の手首を見ると、紫色のアザができていた。
あざはクッキリ指の形をしていたという。

「自販機の中に、なにがおったんやろな?」

それは気になるところだ。


ただ、もう一つ、引きずり込まれたらどうなっていたのか……。

その点はさらに知っておきたい。

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