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第4話 妻の話-黒人の人形

「なんだかわからないけど、最初からいやだったのよ」
妻がその人形をもらったのは、幼稚園児のころだったという。

「黒人の男の子と女の子で、見た目は可愛らしいんだけど……」
誰がくれたものか、覚えていない。
母親の知り合いだったと思うが、それ以上のことはわからない。

ただ、最初に見た瞬間、「怖い!」と感じたことだけは、鮮明に記憶している。
ビニール製で、身長は30センチくらいだったか。
チリチリ頭とつぶらな目は愛嬌いっぱい。
くれた人はおそらく、その可愛らしさに惹かれて、知人の子供にあげるお土産にしよう、と考えたのだろう。

「でも、本当に不気味で」
幼い妻はその人形を箱に入れて、押し入れにしまい込んだ。
鍵のかかるビニール製の箱だった。

両親にはその怖さがわからないらしく、「閉じ込めておくのはかわいそう」と何度もいわれた。
そういわれると、妻もかわいそうに思えてくる。
つい箱から出してみるのだが、やはり怖い。
結局、すぐに箱に戻すことになる。

そんな娘の姿を見ていて、どうにかした方がいい、と思ったのだろう。
妻の母親は、近所に住む友人にその人形をあげてしまうことにした。
その家には女の子が3人いたので、うちに置くより可愛がってもらえると考えたのだ。

人形が去って、ホッと一安心した彼女だが、その夜、不気味なことが起きる。
「母と一緒に、テレビドラマを観ていたのよ」
CMに入り、ふと窓の外に目を向けた彼女は、あの人形を見つけた。
ベランダからリビングをのぞき込んでいたのだ。

「窓の端っこ、しかも一番上に近い高さから、2体並んで身体を斜めに傾けるみたいにして」
あわてて、妻は母親にそのことを告げた。

娘が指さす方に、彼女が視線を向けようとした瞬間、人形が引っ込んだ。
「ピョコって、すごいタイミングで」
ベランダに出てみたが、誰もいない。
当時住んでいた部屋はマンションの11階だった。

彼女が人形を見たのは、それが最後だったそうだ。
友人などに話したこともほとんどないという。
「だって、おかしい人、と思われるだけだから」

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