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第12話 妻の友人の話-トビ職と僧侶
トビ職の健一さんはお寺の改修工事で、屋根から落ちたことがある。
「恥ずかしい話やから、あんまり人にはいいたないんやけど」
そう断りながらも話してくれたのは、以来、奇妙な現象に悩まされているからだ。
お経を読んでしまうのだ。
最初に読んだのは、落下事故の直後だった。
由緒あるお寺の改修現場で起きた事故ということもあり、健一さんはすぐに地元の大きな病院に運び込まれた。
当初、なかなか意識が戻らず心配されたが、幸い身体に大きなケガはなかった。
関係者はホッと胸をなで下ろした。
ところが困ったことが起きた。
病院で意識を取り戻した健一さんは、それまでとは打って変わった厳かな口調で、自分は妙舜という僧である、と語り始めたのだ。
おかしくなってしまった。
頭を抱える親方の前で、健一さんは朗々と経をそらんじた。
もちろん、事故が起きるまで健一さんはお経など読めなかったし、仏教に関する知識もほとんどなかった。
別人になった、としか思えない。
以来、ことあるごとに健一さんは妙舜になってしまうことがあり、仕事にも支障を来すようになった。
トビの仕事は高所作業が多い。
「足場の上で妙舜になってもうたら、また事故ですやん」
知人に紹介してもらった霊能者を訪ねたところ、妙舜は100年以上も前に亡くなった僧侶だという。
丁寧にお祓いをしてもらい、幸いにも妙舜は現れなくなった。
ただ、霊能者からは注意を受けたという。
「もともと取り憑かれやすい体質だから、そのうちまたつ憑くよ」と。
その通り、これまで4体の霊に取り憑かれていて、ときにはまったく知らないはずの外国語を話していたこともある。
「でもなぜか、俺に取り憑く霊は、全部お坊さんなんですよね」
霊能者にもその因縁はわからないそうだ。
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