第33話 友人の話-救い主
サダくんにはSNSゲームにはまっていた時期がある。
「仕事中はトイレでやってた」
ゲームはチームを組んで闘うタイプ。
平日の日中もバトルがある。
サダくんはこっそりトイレに行き、そこから参加していたという。
そのせいもあったのか。
仕事でミスを重ねるようになった。
ゲームのことはばれなかったが、上司にはひどく叱られ、派遣の彼は立場が危うくなるほどだった。
「それでもやめられなくて」
ゲーム内のBBSで相談すると、チームメートは「仕事の時間中に参加することはない」と言ってくれた。
だが、自分がいない間にバトルが進むことが、サダくんには耐えられなかった。
トイレ通いを続け、仕事ではミスを重ねた。
実はサダくんには、秘密があった。
ゲームに参加しているスマホは、拾ったものだったのだ。
居酒屋で飲み会があり、ベロベロにつぶれて帰宅した。
翌日、カバンの中に「それ」を見つけた。
女性のものだろうか。
ボディカラーはピンク系で、かすかに香水のにおいが残っている。
「悪いかな、とは思たんやけど」
サダくんは中を見た。
なぜかほとんどのファイルが壊れているようだったが、SNSゲームのアプリだけ開くことができた。
どうやら持ち主は「カリナ」という名前で参加しているようだった。
おもしろ半分にやってみて、サダくんはゲームにはまった。
「カリンになりきって入るのが、なんやワクワクしてな」
だがはまり続けるうちに、前述した通り、仕事ではミスを連発するようになった。
さらにそのことで仕事のストレスが強まるせいか、体調まで悪化してきた。
ひどい不整脈が出て、一瞬「心臓が止まった」と感じることもあったという。
そんなある日のこと。
サダさんのもとに古い友人から電話がかかってきた。
家が近所ということもあって、幼稚園のころは家族で行き来もあったが、もう何年も連絡など取っていない。
明日にでも一緒に飯を食おう、と誘われて、サダくんは戸惑った。
「宗教かマルチかな、って思て」
誘い方はそれほど強引だった。
どちらでもなかった。
「拾ったものを出せ」
サダくんに会うなり、友人はそう言った。
なぜ、スマホのことを知っているのか?
驚きのあまり、抵抗することも忘れて、サダくんは愛用しているスマホをカバンから出し、テーブルに置いた。
友人は拳を振り上げ、液晶画面に叩きつけた。
拳からはみ出たスプーンの柄がスマホの画面に食い込み、割れた液晶がまだらに黒くなった。
「こうしろって、サダのばあちゃんが」
事情を聞くと、1週間ほど毎晩、同じ夢を見ているのだという。
サダくんのおばあちゃんが現れて、助けてやってほしい、と訴える夢だ。
おばあちゃんはサダくんが子どものころに亡くなっている。
そういえば……サダくんは思い出した。
子どものころ、この友人は「見える人」だった。
無人のブランコを見て「女の子が乗っている」などと言い出す奇妙な奴だったのだ。
「変なもん、拾うな」
サダくんは友人にきつく釘を刺された。
「今回は、俺がばあちゃんの声を聞けたからええけど、そうでなかったら死んでたで」
ところで、そのスマホはなんだったのか?
友人に訊ねてみたが、彼にもそれはわからないらしい。
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