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第20話 妻の話-猫と女性

霊になるのは人だけではないらしい。

「街で見かけるのは、圧倒的に猫が多いわね」

この世を去った動物も霊となって街中をさまようことがあるようだが、妻によると、犬より猫が多いという。

ただ、猫が霊になったからといって、怪談に登場する化け猫のようなものになるわけではないらしい。
生きている時と同じく、街中をウロウロしているだけ。

見た感じは、人の霊と同じく色が薄く、やや透けている。
生者を認識していないのか、関心を示さないことも人の霊と同じだ。

さらに死者と死んだ猫は、お互いを特に認識していないように見える、と妻はいう。

「一度だけ、そうでないのに出会ったけど」

夜の繁華街にそれはいた。
大学生だった妻は、自宅に帰る途中だった。

ふと前を見ると、肩に猫を載せた女性がゆっくり歩いている。

少しして、「ああ、死んでる人なんだ」と妻は気づいた。
色が薄く、その身体を通して、街の景色が見えたからだ。

繁華街で霊を見かけることは、少なくない。

大半は害のないものだから、妻はそのときも、あまり近づかないようにして、追い抜けばいい、と考えた。

足を速め、近づいた瞬間である。
妻はハッと息をのんだ。

よく見ると、猫と女性は融合していたのだ。

「女性の左肩と首の脇あたりから、『猫が斜めに生えている』という感じだったわ」

人と猫が一つに融け合った存在。
醸し出される雰囲気があまりに禍々しく感じられて、妻は足を止めた。

その気配に気づいたのだろう。
猫が振り向いた。

「目が合ったの」

見られた。
普通なら、まったく無視してくれるはずが、自分のことを認識して、目を合わせてきた。

そう思った妻は、あわてて横の路地へと飛び込んだ。

「だって、怖かったんだもん」

妻が恐れたのは、猫に次いで、女性の霊が振り向くことだった。
後ろにいる妻に見られていることを猫が伝える気がした。
そうなれば猫だけでなく、女性の霊も向き直って、妻を見つめてくるかもしれない。


「あんなのに、気づかれたら、ただじゃすまない気がして……」

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