第25話 友人の話-にじみ出てくるもの
子どものころからあまりにたくさん見過ぎて、ただの幽霊くらいでは、特別なものを見た、という気にならないという。
そんなMくんが、つい最近「ちょっとゾッとするものを見た」らしい。
「夕方、学校からうちに帰る途中でした」
とある工事現場の横を通りがかったとき、Mくんは低くうなるような声を聞いた。
「ウウウ……というような声でした。人なのかどうかもわからないような」
自転車を止めて、Mくんは工事現場をのぞき込んだ。
マンションを建てるための工事現場だ。
もうその日の作業は終わり、誰もいないように見えたが、誤って人が穴に落ちたり、なにかの下敷きになっているのでは、と思ったのだ。
人は見当たらなかった。
工事現場は、基礎を打つため、穴を掘り始めた段階で、土がむき出しになっていた。
その土からなにか黒いものが染み出してくるのをMくんは見つけた。
「黒い影のようなものが、ボワーッと染み出してきて、揺れているんです」
染み出てきた陰は、寄り集まって形になろうとしているように見えた。
うなり声を発しているのは、不定形のそのかたまりだった。
Mくんは、あわてて自転車に乗り直し、走って逃げた。
「なんだったんでしょうね?」
この話をしながら、Mくんは何度も首をかしげた。
彼には見えるだけで、それがどういった類いのものなのかはわからないのだ。
ただ、危険なもの、とは感じたらしい。
そのあたりは、うなって牙をむいている犬を見るのと同じ、なのだそうだ。
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