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私のダンナが辞めるまで(28)

匆匆

新居が見つからないまま、夫の退職日を迎えた。次の職場ではしばらく空港勤務のため、家が決まるまでの間、夫は先輩が借りている空港そばのマンションに住むことにした。
毎日顔を合わせなくなるので、私は夫にやることリストを渡し、何とか2人で準備を進めることが出来るようになっていた。

平日はお互い忙しく、週末は結婚式の打ち合わせと家探しで過ぎてゆき、ゆっくり話す暇もなかった。式直前になり、家探しを諦めかけた頃、条件に合う物件が見つかった。

結婚前夜

私は両親とご飯を食べに出掛けた。
父親は寿司が好きで、大学生の頃、私の下宿先の近くにお気に入りの寿司屋を見つけ、最初は私に会いたい口実かと思っていたが、私の留守中に寿司だけ食べて帰るほど、頻繁に通っていた。
そして今日、久しぶりにそこへ行くことになった。

父はもともと口数の多い人ではないが、その日は全く言葉を発しないまま、黙々と寿司を口に入れていた。
「ちょっと!折角みんなで来たんだからこの子と話しなさいよ。独身最後よ!」
堪らず母が言った。
「いや、いいんだ。」
父はそれきり、また喋らなくなった。

食べ終わり、母がトイレに立った時、父がポツポツと話しだした。

「いつも、楽しくしてなさい。」
-はい。
「いつも、笑っていなさい。」
-はい。

しばらく黙り込んだ後、じっと前を向いたまま、父は言った。

「必ず、幸せになりなさい。」

私は明日、結婚する。

つづく…



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