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人生で何度も読み返す『Flowers for Algernon』

久しぶりに散歩をしながら「Flowers for Algernon」のオーディオブックを聴いた。3年前に、Audibleで購入したもの。

一番最初に読んだのは、10代の頃。妹がこの本の日本語訳である『アルジャーノンに花束を』のハードカバーを持っていて、それを借りて読んだのだ。ストーリーに感動して、最後少し泣いた。

高校三年生で留学を決意して、英語の勉強にどっぷり浸かっている頃に、「なにか洋書を読んでみたいな」と思って選んだのが、この「Flowers for Algernon」のペーパーバック。ちょっとネタバレしてしまうけど、この本は知能が高くなる手術を受けた主人公のチャーリーが、日記形式で日々のレポートを書いていくというスタイルで物語が進んでいく。まだ知能が高くなる前の幼い子供のような文章は、英語を勉強中の僕でもやすやすと理解することができた。ただ、チャーリーの知能が高くなるにしたがって、文章が洗練され語彙力が増え、分からない文章や単語が増えてくる。それでも頑張って最後まで読み通した。

次にこの本を読んだのは、あるい程度英語を習得してから。留学先のアメリカの大学で、さまざまなアカデミックな内容の知識や学問に触れていた頃。最初に原文で読んで「難しすぎる!」と感じていた部分も、その頃になると普通に当たり前のように読み進めることができた。まるで自分自身も、知識を蓄え続けるチャーリーになったかのような気分がして爽快だった。

大学を卒業した後、ホームレスになりかけながらもやっとの思いでロサンゼルスの宝石デザイン会社で写真の仕事に就くことができたのだが、1年後に就労ビザが切れてあっけなく日本に帰国。埼玉の地元にあるインターネットサービスプロバイダーに就職した。仕事で英語を使うということはほぼなくなった。使わないと、語学力はどんどん落ちてくる。英語の本を読むなんてことは全くなくなった。「このままではいかん!」と思い、久しぶりに「Flowers for Algernon」のペーパーバックを開いて読み進めた。何度も読んでいる本なので、もちろん内容は分かっている。でも、英語の文章がなかなか頭に入ってこない。明らかに読解力と読むスピードが落ちている。物語の中で知力の高みに達したチャーリーが、その後だんだん落ちていくところに、やけに共感した。

その後、外資系の企業に転職したので、また普段から日常的に英語に触れられるようになり、以前のように語学力の低下に悩むことはなくなった。時々、英語の本も読んでいる。

2020年にAudibleで「Flowers for Algernon」のオーディオブックを購入したのは、夜中に川沿いを散歩しながら耳で読書をするため。私は普段から歩くのがとても好きなのだが、コロナ過で外出がしづらくなってしまった。夜中、人通りのない川沿いなら、気兼ねなくウォーキングを楽しむことができる。そのついでに、耳で英語を聴きながら読書もできれば最高だろう。

人生の、いろんな時期にこの本を読んでいる。そのたびに、少しずつ感じ方が変わってくる。年をとってさまざまなライフステージを重ね、いろんな経験を積んでいくと、物語の違った側面も見えて来たりもする。もちろん、語学力のレベルによっても、文章によって見えてくるものが変わってくるだろう。

そんなわけで、自分自身に対する定点観測のように、時々この本を引っ張り出して読む(あるいは聴く)。そしていつも、やっぱり最後で少し涙ぐむのだ。

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個人的に思い入れのある本、大切にしたい本、知人が書いた本や、私がちょっとだけ載ってる本などについて書いています。

「日曜アーティスト」を名乗って、くだらないことに本気で取り組みつつ、趣味の創作活動をしています。みんなで遊ぶと楽しいですよね。