兄の話
15歳の夏だった。
その日は朝から一人で過ごしていた。体調を崩していた兄の付き添いで父も母も揃って病院に行っていたからだ。
寝るときに目がしっかり閉じていない。そんな理由で眼科に行った。
15時を過ぎても、誰も帰ってこない。洗濯物を干して、前日の残り物をほんの少し食べた。賑やかしにつけたワイドショーでは芸能人がゲラゲラ笑っていて、無性に腹が立った。
何でこんな時間になっても帰ってこないんだろう。
二つ歳上の兄はその年の5月ぐらいから頭痛を訴えていて、寝込むことが多かった。線が真っ直ぐひけない。箸を落とす。成績もがつんと下がっていて、本人は精神的に追い詰められていた。
病院に何度言っても、精神的なもの、で片付けられてしまう。
不安がピークに達したとき、玄関先で音がした。父だ。バタバタと一目散に走って父を迎え入れる。何故か母と兄の姿がない。
「お兄ちゃんは?」
父の目は血走っているように見えた。父が纏って帰ってきた空気が、何か大変なことが起こったことだけを告げていて、
「...脳腫瘍だった」
のうしゅよう。
その当時の私には初めて聞く病名で、腫瘍がガンを指差すことを後から知った。ただ、脳、という単語だけで反射的に涙がでた。
「嘘やろ。そんなん。治るんだよね?」
「分からない。卵ぐらいの大きさらしい」
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