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【TOLOPANの真髄に迫るvol.46】ルセットの基準となる五味の「うま味」について

うま味は、五味の他4つの要素と異なる存在だ。

うま味は認知されたのがごく最近のことで、およそ100年前に日本で発見された味覚だ。英語にはうま味にあたる言葉が存在しないこともあり、特に欧米の人々に認知されるまでに時間がかかったようだ。そして今では『UMAMI』という言葉が世界共通語になりつつある。



「美味しい」と「旨い」は類似している。

だから、その言葉を使用するときには使い分けを自分なりに考えている。

あくまで主観になるのだが、「美味しい」はフレッシュさ、素材そのものの良さを指しているように思う。
対して、「旨い」は熟成や発酵、煮詰めで起こる水分を飛ばすことで甘味や塩味等が増強した時、またそれをあわせて重複させた時と感じている。

表現としても「美味しい」は口に出してしまう新鮮さがあり、「旨い」というのは「ウン、ウン」と味の複雑さや変化に納得させられ、唸るような感じに近い表現だと思っている。



うま味を感じさせる代表的物質として、昆布やトマト等のグルタミン酸、肉や魚の動物性食材にのみ含まれるイノシン酸、キノコ類に含まれるグルニア酸などが知られている。日本では「昆布×かつお節」という合わせ技で「グルタミン酸×イノシン酸」で昔から旨味の相乗効果が利用されている。



ではパンでいう「うま味」とは何か。
生地だけでいうと、タンパク質がそれになる。というのも、「うま味」の要素であるアミノ酸がたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)により分解され生まれるからだ。

タンパク質は種々のアミノ酸が多数連なった高分子だが、グルテンを形成するグルテニンとグリアジンのアミノ酸組成にはグルタミンおよび疎水性のアミノ酸が多いという特性がある。グルタミンは水和したグルテン分子内、分子間に水素結合という弱い結合を作り疎水性のアミノ酸は疎水結合と呼ばれる弱い結合を作る。その結果、小麦に水を加えてミキシングすると水に濡れたグルテニン、グリアジンは多数の水素結合、疎水結合によってグルテン分子を形成する。

それに伴い「うま味」のアミノ酸を貯蔵することのできる酵母は液胞を持っている乾燥酵母以外となることから、トロパンでは椿酵母(生イースト)やサワー種を使っている。液胞は細胞中の老廃物を再利用するだけでなく、アミノ酸の貯蔵庫としての機能もある成長とともに大きさを増し、しまいには細胞の大部分を占めるようになる。

パン生地では酵母の増殖を終え、アルコール発酵、乳酸発酵にによる、うま味成分が焼成段階で出るメイラード反応、キャラメル化反応とあわさることで、旨い味というよりは旨い風味が生まれる。後は「うま味」以外の四味のバランスと発酵と熟成の管理にかかっているだろう。

カンパーニュやルヴァンリキッドで増殖調整された食パンなどが、トロパンでは生地の「うま味」になっている。

ミートパイ等は「うま味」とその風味がわかりやすい。トマトソースのグルタミン酸+牛肉のイノシン酸+キャラメリゼした玉ねぎ(水分蒸発による甘味の詰め)+包む前に肉(パティ)だけを一部焼成をしたメイラード反応による風味となる。

このメイラード反応、キャラメル化反応を伸ばせるUNOXベーカートップは「うま味」の風味にも優れていると感じている。





大人になればなるほど、元々の自分の素材を活かしつつ、「うま味」のように変化を続けながら熟成し、自分が自分を感心し、納得する職人になりたいと思っている。

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