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【TOLOPANの真髄に迫るvol.39】「発見」の感動に出会える、TOLO流塩パン

僕は塩パンブームをテレビで知った。
愛媛の古いお店が発祥だと知り、「新しいパンを発見したんだなあ」と感心したものの、自分の心には刺さらなかったのを覚えている。

それから何年か経った昨年の7月。
この時に僕はもう一度塩パンと向き合うことになる。

イトーヨーカドー様とヤマザキパン様と非常に楽しい仕事をさせていただいた。トロのファクトリーに50品以上のアイテムを持ち込まれて、コンベクションオーブンを使いその場でステップを組み、プログラムを作るというものだった。その中で、「一番こうしてほしい」という想いが強かったのが塩パンだったのだ。

しかし、僕は塩パンを食べたことがなかった。
完全なイメージでしかなかったのだ。

バターロールにバターが溶けて中が空洞になり、ややミルキーな甘味と外側の塩の塩辛さが病み付きになるのでは、と僕は勝手に想像していた。ヤマザキパンの方には、底が揚げ焼きになっていることを一番強調されていたので、その質感と合わせてブールノワゼット臭が重要になるだろうと仮説を立てた。

そこからは実際の焼成へ。最後をなるべく高温で短時間にしないと、上の皮目がしっかりしすぎてしまいバランスが悪くなる。温度はUNOXで230°C、スチームを10%から20%入れて表面温度を少し下げ、上面部の炭化防止を狙う。さらに、ファンをマックスで30秒から35秒で焼き上げると理想的になった。

ここで僕は初めて塩パンを食べたのだが、上面部の歯切れの良さ、ブールノワゼット臭からのガリっとした良い食感を咀嚼してすぐに甘味のあるミルキーさと塩味のマリアージュはなんとも絶妙だった。

正解や見本を知らない未知の段階で、自分で想像し、自分で創作し、自分で食べた。

この時、「発見」した感覚になった。

それは小さい頃にクワガタを見つけた時の感覚に似ていた。その種類のクワガタを探しに行って、そして実際にそれを自分が発見することから生まれる感動。こんな見事なクワガタが本当に実在するのか、と。発見できるとは思いもしなかった、と。


この「発見」の感覚をさらに昇華させたい。
そこでトロパンでは、サワー種と古代小麦を使ったセミハードの塩パンにしたくなった。

サワー種とルヴァンリキッドを使用する理由は、風味が独特であることから。特にバターのミルキーさと酸味と旨味と塩味。これがマリアージュする時に起こるチーズ臭、これを第一に考えている。古代小麦の中でもアルファードを使用しているのは、アメリカ産有機スペルト全粒粉の粗さと香り、熟成させた時の広がりが古代小麦の中で別格に良かったから。バターを中心に考えた時に、咀嚼した時の全粒粉の香りでまた食欲が上がるようにしたかった。UNOXの焼成では150gのパンを17〜18分で焼き上げるために2段積みのUNOXで、最後の揚げ焼きをより短時間にするために230°Cで予熱をつくった。オーブンに入れ変えることで絶妙になるのだ。

軽くなく、少しヒキがあって咀嚼する質感に、バターのメリハリとチーズのような香りに酔わされる塩パンに仕上がった。





「発見」とは、あるものに着眼し、その過程でより良いものの欠片を見つけることである。

職人的には「発見」とは毎日の日々のことだ。

厨房に入るまでの風の音、香り。
その自然を取り込み、現場で活かす。

職人は日々の「発見」からくる鋭い喜びを得るために、毎日が来るのをいつも待ちわびているのだ。

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