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Exit to Communityのケース研究

多くのベンチャーキャピタルや投資家は、未上場企業投資し、IPO(上場)によって公開市場の中で株式を売却するか、もしくはM&Aのように起業家が会社や事業を売却する際に株式を売却する。これらがいわゆるイグジットとされています。 

しかしZebras Uniteでは、会社の従業員、取引先、地域の方など、投資先の会社のコアなステークホルダーに株を最終的に持ってもらって、その後の経営に関わってもらうという、株を通した新しい関わりを提案しています。外部のお金を出す投資家ではなくて事業に密接に関わっているひとたちに所有してもらう。その会社から生まれてくる利益をそのコミュニティ、そのステークホルダーの中で分配して行く。ゼブラ企業が社会的インパクトと利益を両立するための方法論の一つとして注目しているのが、Exit to Communityという手法です。

M&AやIPOと異なる、投資家による所有からコミュニティによる所有を目指すイグジット方法として唱えられたこのコンセプトは、世界各地で注目を集め、Zebras Uniteやその関連機関を中心に研究を進める一方、国内事例は多くありません。 

今回スピーカーとしてお話しいただく山中さんがインパクト・インベストメントチームディレクターを務める、KIBOW社会投資ファンドは、インパクト投資として出資した株式会社manabyの株式を、manaby社のパートナー企業複数社に譲渡しました。 

manaby社のパートナー企業に保有株式を譲渡し、KIBOWがキャピタルゲインを得るという新しい枠組みは、ゼブラの観点からは「Exit to Community」とも言える事例であり、志を同じくした仲間のちからを借りて共同で社会的事業を拡大する「ソーシャル・フランチャイジング」というモデルとして、今後拡がりが期待されています。 
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000063884.html

今回はそのような先駆的取り組みを実行した山中さんとともにExit to Communityについて2021年9月24日に行われたZebras Cafe【Exit to Communityのケース研究】 を記事化しました。

一般財団法人KIBOW(https://kibowproject.jp/): 
東日本大震災の3日後に始動した救援・復興支援プロジェクト「Project KIBOW」は、「希望」と「Rainbow」から命名。長期的に被災地を支援していきたいという思いから、2012年2月に一般財団法人化。2015年にはKIBOW社会投資ファンドを設立し、社会課題の解決に寄与する社会起業家を支援している。 
 
山中 礼二さん
KIBOW社会投資ファンド 代表パートナー
キヤノン株式会社、グロービス・キャピタル・パートナーズ、ヘルスケア分野のベンチャー2社を経て、グロービス経営大学院(専任教員)。ハーバード・ビジネス・スクール修了(MBA)。特に震災後、多くの社会起業家の育成と支援に携わる。


陶山:
山中さん今日はよろしくお願いいたします!まずは簡単にKIBOW社会投資ファンドについて教えていただけますか? 
 
山中礼二さん(以下敬称略): 2015年に被災地の支援だけに限定をせずに日本全国で様々な社会課題にチャレンジをしている社会起業家の皆さんに対して投資をしようということでKIBOW社会投資ファンドを立ち上げました。 

ベンチャーキャピタル部門のあるグロービスのスタッフが私も含めて兼任してやっていたため、ベンチャー投資型のインパクト投資(*)の形となっています。これまで合計で12社ほどに投資をしてきました。(一社あたり1000万-5000万円)(注2023年5月現在では18件) *経済的なリターン(私益)と社会的インパクト(公益)の両方の利益を求めて行われる投資。 

通常のベンチャー投資は投資先をIPOさせる狙いで投資をすることが多いんです。 しかし、私たちインパクト投資の世界では必ずしも起業家がIPOを目指してない場合もあって。そういう場合でもKIBOW社会投資ファンドは投資をするようにしています。 途中で私たちの持分株式を誰かほかの方に譲渡して、私たちはイグジットします。 

 

manaby

KIBOWがExit to Communityを行ったmanaby社とは?

陶山:manabyさんは具体的にどのような事業をされているのでしょうか。

山中:就労支援事業ですね。例えば統合失調症の方。働く力を持っているけど、通勤では働けないという人でもITのスキルがあれば在宅でも勤務できるかもしれない。さまざまな障害のある方にもITのスキルを身につけて選択肢を広げてもらおうと考えたのが、このmanabyという会社です。

 HTMLやWordpress、Photoshopなど、manaby社が作ったeラーニングのコンテンツを事業所や在宅で学んでいます。
 
私たちが最初にmanabyと出会ったのはグロービス経営大学院でした。岡﨑社長がグロービス仙台校に通っていて。 当時、被災地から立ち上がってきた起業家を応援するための特別な基金があったんですね。そこに応募されていた岡﨑さんに審査員としてお目にかかったというのが最初で、その後2018年の10月に投資しました。 

実際に私たちがイグジットしたのが、その2年後になります。その間に直営事業所の数が4事業所から10事業所に増えました。その後どんどんフランチャイズのオーナーとして、manabyの事業展開に参加したいと言う人たちが現れてきています。 
 
このeラーニングでITのスキルを身につけて自分に合った職種や環境で働けるというのが非常に効果的で、就職した後に職場に定着する人、長く働き続けられている人が非常に多いです。特に在宅勤務している人の職場定着率(注:6か月以上の定着率、2020年9月時点)は96%と非常に強いインパクトが出せていると思います。 

陶山:KIBOWさんがExit to Communityに至った経緯を教えていただけますか?

山中:前提としてmanaby社はIPOを目指して急激に成長しているタイプのベンチャーです。 (2022年4月TOKYO PRO Market上場)将来的なIPOに向けて取り組むにあたって資本構成を調整しようという話になりました。 
そこでKIBOWが外に出て、新たに株主になりたがってくださっているフランチャイズのオーナーの皆さんと新しい経営陣メンバーに株式を譲渡しようという話になり、すべての保有株式を譲渡しました。 
 
Exit to Communityという言葉を、当時私も知ったばかりだったのですが、ちょうど2020年の9月ごろにテッククランチの日本のサイトにスタートアップ創業者の Exit to Communityを目指す動きが高まっているという記事が出ていまして。自分たちがやろうとしていたのは、まさにコミュニティへのイグジットなのかと思いプレスリリースにもそう書かせていただきました。 


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KIBOWとしてのイグジットに対する考え

陶山 
KIBOWさんは一般的なVC型のインパクト投資以上のことをやられているように感じます。今回の場合はExit to Communityのような形のイグジットは考えていなかったと言われていましたが、そこまで考えて投資されている場合もあるのですか? 

山中 :三種類のイグジットが私たちにとってはありえると思いながら投資をしています。一つはIPOで、もう一つは会社ごとの売却。こちらはシリアルソーシャルアントレプレナーを目指す方はこの選択肢をとられることもあります。そして、三番目がそのどちらにも当たらない持分だけの譲渡ですね。どのイグジットをとるかは起業家の方の意思決定だと思っていています。 

陶山 :KIBOWさんは財務リターンが小さくなってしまう可能性についてはどう考えられますか? 
 
山中:財務的リターンについてはもちろん考えます。KIBOWは社会が大きく変わるっていうのが一番のメインゴールではあるんですが、もう一つのゴールはやっぱり財務的なリターンを上げることです。 

どのイグジットを選択するかは起業家次第ではありますが、どのタイミングでイグジットを迎えるかはKIBOWがある程度の経済的なリターンも勘案しながら決めていきます。 

陶山: manabyさんのイグジットも財務的なリターンをあげたうえのものだったんですね。 

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コミュニティへのイグジットとインパクトデューディリジェンス

陶山: 公開市場ではなくコミュニティのイグジットでの難しいところはどこでしたか? 
 
山中:投資家から見た時の難所が一つと、起業家から見たときの難所が一つあります。 
 
起業家から見たときの難所はその株の買い手になってくれるような仲間を惹き付けなければいけないところです。manabyの場合には、フランチャイズのビジネスが非常にうまくいっていました。フランチャイズのオーナーの方々がmanabyの思いに共感してくださって株を持ちたいと言ってくださったので、その時点で1つめの難所をクリアしたのかと思います。 
 
投資家にとっての難所は、適切なところに株を持っていただかないと、インパクトにつながらないことです。
適当でない人に株を持たせて私たちがイグジットした場合、社会に与えるインパクトはネガティブになってしまうリスクがあります。そのため、 この人は本当に株を持ってくださっていい人なのか、ありがたい人なのかっていうことか、インパクトデューディリジェンスをこの出口のタイミングで行うというプロセスを踏みました。
 
陶山最初はアメリカのロックフェラー財団が言い出したこのインパクト投資。インパクトデューディリジェンスのような手法が磨かれてきたのもこの十数年です。投資のタイミングやインパクトを踏まえた上で意思決定をすることが極めて重要だとおもうのですが、イグジットにおけるインパクトデューディリジェンスはほぼ事例がないと思います。インパクトIPO、どうインパクトを意識しつつIPOを考えるかの議論がされているなか、イグジットにおけるインパクトデューディリジェンスを実際にどのように行われたか、その特に大変だったこと等をお聞きしたいです。 
 
山中:私たちの場合、数10%のマイノリティの持ち分の売却ではありましたが、それでもやっぱり譲渡する相手には気を使いました。
 
自分たちの売り先の会社概要を調べた上で、調査をした観点は以下の三つです。

一つ目が財務の観点。自分たちが株式を譲渡した相手の会社が財務的に安定していて、安定的に株を保有し続けてくれそうかどうか。 

二つ目がインパクトの観点。その会社が株主として入ってくることで、このmanaby社のインパクトの広がりにはどういう影響が出てくるのか。例えばフランチャイズオーナーがもっとアグレッシブにフランチャイズの店舗をどんどん出してくれるのか、またそうでもないのか。

三つ目が経営支援という観点。非常に経営力の高い方が株主として入ってくれれば、そのかたが、さらにmanabyに対して良い刺激を与えてくれるかもしれない。そういうポジティブな影響があるかないか。 
 
以上三つの観点から、ポジティブ、ニュートラル、ネガティブ、それぞれどういうインパクトがあるのかを評価をしました。その結果としてイグジットを決めました。 

 田淵: 今回みたいに事業関係者が株を持つということになることのネガティブインパクトについては何か対策はされましたか? 
 
山中:manaby社のようなマイノリティ出資のケースでは想定する必要はありませんでしたが、一般論として考えると、本当に経営にインパクトを与えうるような株主にジョインしてもらう時には、人を選ぶことが必要だと思います。 もしくはクラウドファンディングのように、多くのファンの人にはいってきていただくっていうこともこれからの株式市場ではありえると思うんですね。 

ガッツリ渡す時には相手を選ぶ。広く分配するっていう時には何かしらクラウドファンディング型等の仕組みを使うこともありえるのかと思いました。 

陶山:リスナーの方からの質問です。社会的インパクトは過去財務的なものだけでなくとも、リターンの時間軸が長いこともあると思うのですが、償還期限的な投資条件の考えかたはどのように考えられていますか? 

山中 :KIBOW社会投資ファンドの場合には、ファンド全体の期間、ファンドライフっていうものを20年間というふうに非常に長く設定しています。(注:現在運用中の3号ファンドからは、15年間)個別の投資については通常は7年から10年という時間軸で考える方針です。起業家ともそれを握った上で投資をしています。manaby社のケースは2年間なので、そういう意味ではイレギュラーで短いケースですね。

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インパクト投資ファンドが投資家にできること

陶山:もう一点、リスナーの方からの質問です。起業家にとってインパクト投資ファンドを出資者として選ぶインセンティブを大きい順からいくつか挙げていただけますか? 

山中:インパクト投資ファンドを入れることのメリットの一つ目は、社会起業家のその社会に対する思いとシンクロすること。 
 
二つ目は、インパクトインベスターはこの会社の社会的インパクトが素晴らしいってことを審査した上で投資をするので、そのお金を入れることで、社会を変える企業としての旗印が高く掲げられることです。そういう目で他のメディアも見るようになりますし、 recruitingの時にもスタッフたちがそういう目線で見て会社に入りたいと思ってもらえるようになります。
 
三つ目はファンドによりますが、社会的インパクトを強める方向で経営に関与してくれるというケースもありうることです。例えば、こうインパクト指標を決めて、それをKPI的に毎月測っていきましょうとか、ビジネスやるだけじゃなくて、制度に対してもインパクトを与えていきましょうと行政に働きかけるための手伝いをしてくれたりとか。そこはファンドによって色々支援のポイントがあるとは思いますが。

上記シンクロ・旗印・経営支援の三つが、インパクト投資ファンドがお金を入れることのメリットですね。
 
陶山:ありがとうございます。社会に対して旗振りしていくような効果をやはりインパクト投資ファンドは持っているのだと改めて感じました。よりそのシグナルを大きくしていく為にはどうしたらいいか、KIBOWさんとして工夫しているところはありますか? 
 
山中:まずは私たちが良い会社に投資することです。ポートフォリオリストをみて、周囲からKIBOWはこういう会社に投資するファンドなんだと思ってもらえるので。投資するということは、ある種KIBOWのブランドに色をつけることになります。そのため、投資先の選定は慎重にしています。

また、私たちは4回ほど前の投資から、プレスリリースの中にロジックモデルを書いています。ロジックモデルというのは、その会社の活動がどういうプロセスで社会変革につながるかっていうのを図で表したようなモデルです。 投資をする時に無味乾燥なプレスリリースを出すのではなく、投資をして会社が大きくなることを通じて、どういう順番で社会がよくなるかと、どういう社会変革を狙っているかの意図を大胆に書いてプレスリリースに貼っています。

それによって、見ている皆さんも、投資先の会社がどのように社会を変えようとしてるのか旗印の立ち方がはっきり分かるようになると思うんです。 

陶山:KIBOWさんが投資しているRennovaterさんという住宅を借りるのに苦しむような方々の住宅提供をしている会社さんが京都にあるのですが、僕自身もその会社の経営支援に関わっていて。そのときもまさにものすごくわかりやすくプレスリリースで書かれていて。裏側でかなり緻密なロジックが組まれていた上でわかりやすいように単純化されています。 みなさんももしよかったらチェックしてみてください。こちら

もう一点、ソーシング活動を行う中でインパクト投資に適していると考える事業、難しいと考える事業について教えていただけますか。

山中:いろんな会社に投資していますが、その会社の生み出す経済的なリターンと社会的インパクトがトレードオフではなくお互いがお互いを強めあうようなスキームであると投資をしやすいです。 

例えば、私たちの投資先の愛さんさんグループ。障害のある方を雇用しながら、高齢者向けのサービス介護を行っています。障害のある方を雇用することで、地域で評判が高まり、ますますその高齢者向けのサービスの方に利用者を紹介していただけるといった関係にあります。 
 
一方インパクト投資が非常に難しいなと思って、僕が悩み苦しんでいるのは、例えば子どもの貧困の分野です。子供にたくさんご飯を食べてもらうほど、売り上げが上がるような子供食堂みたいなモデルがまだ見出されていないと思うんですよね。 こういうビジネスモデルがなかなか成立しないセクターでは、助成財団の役割がすごく大きいと思っています。 

株主安定とイグジットの機会のバランス

陶山 :コミュニティが株式を持つのは、持ち続けるという点で株式市場の設計する株の流動性とコンフリクトはおこさないのですか?どういう状態が理想だと思われますか? 

山中:非上場会社の場合のほうが流動性が低くなりがちですよね。売りたいって言っても買ってくれる人がほとんどいないというのが、ソーシャルベンチャーにかかわらず、すべてのベンチャーにおいて言えるかと。 

基本安定的な方が望ましいけれども、イグジットの機会はそのコミュニティ内で少しはあったほうが理想の状態なのではないかなと思います。意思に共鳴してコミュニティのメンバーになってくれた株主であっても、何か家庭の事情とか、いろんな事情でその株式を現金化せざるを得ないタイミングはありえると思います。 そういうときにかわりに手を上げてくれるような他のコミュニティメンバーがいて、適度な流動性が保たれている状態は理想的なのではないかと思います。

日本クラウド証券(現ファンディーノ)が株主コミュニティみたいなマーケットを今作ろうとしていると思うんですけど、そういう中でそういうものが実現できたら。 (2021年11月実現)

最後にひとこと

山中:KIBOWとしてはIPOを好む好まないどちらの起業家に対しても投資をしています。 
公開企業にはなりたくないと考えている企業に対しては、持分譲渡でイグジットするという形で決めています。ただ、最終的に、大きい会社になってもらいたいっていう希望はKIBOWとしては変えるつもりはありません。 時間はかかってもいい。時間軸は長くてもいいから、最終的に大きいものを目指していただきたい。そんな思いで投資をしてきますし、そこは今後も変わらないかなと思います。

いずれにせよ起業家の志向は多種多様であるべきだし、それに合った多種多様なニーズに合わせた投資家のお金は必要です。インパクト投資が生まれてきたのは大きな進化だと思いますし、ますます起業家の方のニーズに合ったお金が得られやすくなりつつあるのかなと思っています。 

山中さん、ありがとうございました!


本記事では、イベントを抜粋した形でお届けしています。 イベント全体のアーカイブをご覧になりたい方は、ぜひこちらからご覧ください。Podcastでも配信しています。 今後もTokyo Zebras Uniteは本noteやイベントを定期的に開催して様々な角度からゼブラ企業に関する情報を発信していきます。 ぜひ、noteとFacebookをフォローいただけると嬉しいです。 FBでいいね を押して頂けると、最新情報が届きます。



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