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ありがとう、東急本店。

2023年1月31日。東急本店が営業を終了した。
跡地には地上36階建ての複合施設が建設されるらしい。

思い入れがまったくないといえば嘘になる。

何度もこのMARUZENジュンク堂で本を買ったし、
喫茶店トップで珈琲を飲みながら買った本を読んだし、
屋上のペットショップで猫や犬を見て癒されたし、
料理素人のくせに本格的なまな板と包丁を買ったし、
謎の米びつみたいなものも衝動買いしたし、
エルメスの店に入ってみて「自分はエルメスを着るタイプの人間ではない」ことを悟ったし。

「え、東急本店で家具を買う人いるの?!」と
友人にツッコミをもらいながら大きめのソファを買って
東急本店の店員も三年ぶりに家具を買う客が現れたみたいに「え、うちで買う人いるの?!」みたいな感じで接客されたし。

買ったソファは狭い部屋には大きすぎて
姪っ子が泊まりにくるときは彼女の寝床になり、
僕にとっては荷物と洗濯物と機材置き場となり、
何度かメルカリに出品しようと思って写真を撮っては
そのたびに愛着が優ってあきらめてきた。

別府での正月休みを終えて東京に戻ってきたとき、
はじめてこの垂れ幕をみて終了すると知った。

一昨日、原宿でラフォーレを見た時、
「あ、そうか今日は東急本店の最終日か」と思い出した。
代々木公園を突き抜けて帰るところだったが
明治通りを左折して僕はまっすぐ東急本店を目指した。

店の前にはマスコミがいて大勢の人が入口の前にいた。
こんな時に限ってスマホの充電が切れていて何も撮ることができない。

メインエントランスは多すぎるので出口専用から侵入し、
各階をぶらぶらと散歩してみた。

どこもかしこも見たことのないような賑わいを見せていた。不思議なもので、まるで数十年前の東急本店にタイムスリップしたような気がした。

きっとバブルの頃とか毎日こんな感じだったのではないだろうか。こんなに活気溢れる東急本店を初めて見た。
大行列のレジを待つ人の先には「最後尾」と書かれたプラカードを持った店員が階段の途中辺りにまで立っていた。

そして何をするでもなく、ぼんやりとベンチに座っていたり、東急本店の建物を少し遠めからぼんやり眺めているおじいさんがいたり、屋上にもたくさんの人がいて、やはりただぼんやりと立って感傷に浸っている人たちがたくさんいた。

若い人の多くは、写真を撮っていたが、
年配の人の多くは、ただ、その百貨店を見ていた。

僕にはその光景がたまらなく美しく見えた。

そうか、彼らは最終日の東急本店を見に来たのではなく、
きっと自分の歩んできた人生を見ていたのかもしれない。

昭和42年に開業した老舗百貨店。
僕が最初に挙げたような思い出よりもはるかに多くの数え切れない思い出を抱えた多くの人たちは、それぞれがそこにいたいように最後の時間を楽しんでいた。

ありがとう、東急本店。
おつかれさまでした、東急本店。

あなたにとっての東急本店はどんな場所でしたか?


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