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【ブックレビュー】新社会人に薦めたい本「学問のすすめ 現代語訳 」

大学卒業したての皆様としては「また学問か」と辟易してしまうかもしれない。しかし約150年もの間読み継がれてきた「学問のすすめ」は責任ある社会の一員となった今こそ、仕事で成功するために読まれるべき一冊だ。

一万円札の顔となっている福澤諭吉は江戸時代生まれの啓蒙思想家であり、慶應義塾の創設者である。教育をビジネスに昇華し大成功を収めた実業家の言葉は、社会人のスタートダッシュのタイミングで聞いておいて損はないはずだ。「学問のすすめ」は導入である初編と心得17編からなる。各編は短く、読みやすいので5時間程度で読了できるだろう。ただし原典は文語体で難解なため、現代語訳である本書を推薦する。

「学問のすすめ」といえば「天は人の上に人を作らず」という一説が有名なばかりに、この一句ですべてを知った気になっているのなら、それは大きな間違いだ。そもそもこの言葉は福澤本人の言葉ではなく、アメリカ独立宣言からの引用という説が有力で、本書でも「〜と言われている」という書き方になっている。

この豆知識を得られるだけでも本書を手にとる価値はあるかもしれない。福澤がここで述べたいのは「生まれた時は皆平等な権利を持っている。ただしその後、豊かで地位が高い者になれるか、貧しく地位の低い者になるかは、学問次第である」ということなのだ。

学問とは何か? それは生活の中で必要な目的を達成するための「実学」である。本を読んで仲間内で深淵な議論をするだけではない。帳簿の付け方やそろばんの稽古、地理物理歴史経済、生活のすべてが該当する。そして学ぶことで、物事を客観的に捉え、道理を見極め、正しい判断力を身につけることができる。

福澤はこれまでの常識を疑うことを良しとし、既成概念に因われず「おや?」という違和感を得るには、何より判断力が必要だ。それは現代風に言えば「ビジネスを成功に導くためのイノベーションの種」と言えるかもしれない。社会に出てこそ、学問が活きるのだ。

昨今、SNSの炎上騒動など過剰な批判が発言者を窮屈にさせていることは往々にしてあるが自信のある文章は頼りがいがある。長い封建時代が終わり「学問のすすめ」が執筆された明治初期はまさに自由主義の夜明けといったムードであったが、一方で旧態依然とした考え方が跋扈していた。

福澤諭吉はそうした世間の空気を恐れず、古い慣習を疑い、批判し、先見の明ある発言を堂々としてきた人物だ。本書のリズミカルで軽やかな文章も、原典の福澤らしい「気概ある」文体を活かしている。

「学問のすすめ」は名著として名高いわりに、私は読了したという人になかなか出会わない。新社会人で未読の方は、やや気が進まなくても初編、12編と14〜17編だけでも読んでほしい。ビジネス書として、今日からできる具体的な指南がぎゅっと詰まっている。

皆様は今後、新しい環境において多くの学びを得ていくことかと思う。その前に改めて「学問」に向き合うことは、その先で得るものの濃度を高めることに繋がるだろう。半世紀ほど続く社会人生活のうちのほんの少しだけ時間を割き、明治の成功者の言葉に耳を傾けることを「すすめ」る。


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