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#5 お店を止めるな!リモート大作戦

 実は、2020年4月25日を過ぎた辺りから、ヤンゴンではにわかにショッピングセンターなどの営業再開の機運が高まってきた。そして、「入居しているSan Yeik Nyein Ga Mone Pwint ショッピングセンターが5月2日に営業を再開する」という情報が飛び込んできた。
 この情報はマネジャーのHtet Myat Aungからもたらされた。その時、彼はかなり興奮し、舞い上がっていた。しかし、昔からこの男が伝えてくる、「いい情報(Good News!)」ほど当てにならないことはない。いつも、どこかに落とし穴がある(笑)。
 もちろん彼が悪い大嘘つきで信用ならないわけではない。一般にミャンマー人はみんな嘘つきだと僕は思うことにしている。それも悪い嘘つきじゃなくて、悪気がない、他愛もない嘘をよくつく。本人もきっと嘘をついてるとは思ってない、そんな嘘。もしくは正しくない情報。都市伝説。デマ。これをまた、純真な瞳をキラキラさせて、まことしやかに伝えてくるんだよなあ。しかし、真に受けてしまうとちょいちょい痛い目を見る。まあ、その辺の話は追々、説明していきたい。
 彼のGood Newsをにわかに信じられない理由の一つは彼がめちゃくちゃ単純・短絡的で、ちょいお馬鹿だからだ。本人曰く、色々悩みは尽きないくらい抱えているそうだが、基本的にポジティブで、万事、自分に都合よく考えることができる幸せな男である。だから、一年前、彼を2代目の店長に抜擢したのだけれど。
 二つ目は、彼の英語力がかなりいい加減で、コミュニケーションにやや難があるからである。そこで、すぐにショッピングセンターのGMに連絡したところ、間違い無いとの回答を得た。さあ大変だ!Htet Myat Aungは小踊りしながら「カスタマーに広報する」という。「まあ、ちょっと待て」。鼻息荒い彼を諌め、冷静に一人、色々と思考してみた。

ミャンマー人はみんな嘘つきだと心得よ

 まず田舎に帰っているスタッフを呼び戻すべきかどうか?この時、田舎に帰省していたスタッフは3名。そして、その3名に加えて、新型コロナ騒動の前の3月初めに、父親の介護のため休職扱いで帰省し、現地でシェフの仕事(しかも給与はTokyo Tomato Cafeの3倍以上)が見つかり、そのまま退職することになっていたMarteが、4月の下旬には「やっぱりヤンゴンに戻って、Tokyo Tomato Cafeで働きたい」と言ってきていた。
 彼ら4人をヤンゴンに戻しても、正直、お店はそんなに忙しく無いので、きっと一日中、ぼーっと過ごすだけであろう。テイクアウトとデリバリーだけの時短営業になるはずだから、おそらく1日、3人いれば十分。そうすると、週休4〜5日のシフトになってしまう。
 さらに、地方からヤンゴンに帰った場合、2週間の施設隔離もしくは自宅待機になるらしいとの情報もある。これも例によって都市伝説の可能性もあるが、少なくとも、いまヤンゴンはすごく排他的になっているのは確かだ。外国人や海外から帰国した人たちに対してすごく冷たいと聞く。地方から帰ってきた彼らもまた、同じように差別されかねない。特に、4人中3人はシャン族、カチン族の少数民族である。
 思案の末、彼らには地元にしばらく留まってもらい、給与ではなく、生活支援金を毎月1人あたり60,000ks送ることにした。本当は100,000ksくらい送金してやりたいとこだが、そうすると、お店で働いているスタッフから不満が出るに違いない。僕なりに苦渋の決断であった。
 その旨、Htet Myat Aungには伝え、帰省中の4人にはそのまま待機、ヤンゴンにいる者には5月2日の朝に、全員出勤し、全員で大掃除をするように指示した。そしてお客様には掃除終了後に広報することにした。
 僕はこの時まだ、本当に営業再開できるのか、半信半疑だったのだ。だって、みんな嘘つきだから。この国では何事も、100%真に受けてはいけないのである(笑)

家に帰るまでが遠足だよ!

 そして、オープン前に僕とHtet Myat Aungの間にはどうしてもやらないといけないことがあった。それは、デリバリーサービス「Yangon Door 2 Door」のオーダーを止めることだ。当初、ティンジャン休暇明けの4月20日から営業再開の予定だったため、20日になると早速、デリバリーの注文が入った。Yangon D2Dからのオーダーはメールでお店のGmail宛に届くので、日本にいながら僕もそれをチェックできる。
  「おい、D2Dから注文が入ってるぞ!すぐ連絡して、受注ストップ。しばらく休業延期を伝えろ!」とHtet Myat Aungに指示。「Yes Boss」。しかし、翌日もオーダーが止まらない。彼はちゃんと電話で伝えたという。でも、止まらないのだ。
 「もう一回電話しろ!」「Yes Boss」。20日以降、毎日、このやり取りを繰り返していた。途中、キャッシャーのThi Riも間に入り、メールを含めて連絡してもらった。しかし、止まらない。注文サイトを見てみると、今だにTokyo Tomato Cafeは掲載されていて、オーダーできる。
 「自分でサイトをチェックして、オーダーできないようになったか確認しろ!それが確認できて、初めて『止めた!』、ミッション終了と言えるんだ!中途半端な状況で放置するな。仕事は最後まで貫徹せよ!」。この辺のことをミャンマー人に理解させるのはなかなか難しい。
 なにせ、彼らは基本、自己中な人たち。そして、言い訳させたら、世界屈指に達者な人たちである。「自分は言われたことはやった。止まらないのは相手が悪い。自分は悪くない」と彼らは考える。「いやいや、止まるまで確認して、やりきるのが仕事だよ!」。ミャンマー人に「家に帰るまでが遠足」の例え話は通じない。いつも、苦労することの一つである。
 結局、D2Dのオーダーが止まったのは、営業再開直前の4月30日。そして、ご想像通り、今度はオーダー再開にも苦労した。5月2日の大掃除完了後に、連絡させたが、オーダーが再開したのは2日後の5月5日だった(笑)。「This is Myanmar!」。ヤンゴン在住の日本人がよく使うぼやきの言葉だ。僕はもう慣れっこだけど、ヤンゴンに来たばかりの日本人にはなかなか理解できない。僕が「ミャンマー人はみんな嘘つきと思うことにしている」と肝に銘じている理由が少しはご理解いただけると思う。

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いい加減な英語、ご愛嬌のビルマ語、心のこもった日本語

 「ヤンゴンのスタッフとは何語でコミュニケーション?」。よく聞かれる質問の一つである。僕は基本的に、いい加減な英語とご愛嬌のビルマ語、そして心のこもった日本語の3つを駆使している。
 お互い学校で英語教育は受けているので、ある程度単語はわかる。でも、文法はめちゃくちゃだし、適当な単語を並べ立てる、いい加減な英語である。でも、そのいい加減の塩梅がちょうど良いみたいで、なんとなく通じている。意思の疎通とか情報共有は英語を使う。
 そして、ご愛嬌のビルマ語は会話の中でタイミングよくブッ込むことでコミュニケーションが和む。女性スタッフは「チンポ カウデ(可愛いね)」とか「ラーデ(綺麗だね)」っていうと、ポッと頬を赤らめてにっこり笑う。実は外国人にこう言われるのが嬉しいらしく、最初の頃は積極的に僕にこういう単語を覚えさせて、言わせるのをスタッフ間で競っていた。ちなみに「チンポ カウデ」は「シメ(お勘定してください)」と並んで、日本人男性が最初に覚える基本ビルマ語の一つである。時々「チンポ 噛んで」って言ってるおじさんがいる。ご用心。
 そしてビルマ語の方が良いケースもある。例えば、業種柄、「〇〇の在庫はあるか?」とかの確認。「シーレ(ある)」「マシブ(ない)」はとてもよく使うし、ビルマ語の方が間違いない。あとは「チャイデ(好き)」「マチャイブ(好きじゃない)」、「カウデ(GOOD)」「マカンブー(ダメだ)」。「カナリ サバオ(ちょっと待ってね)」これも結構よく使う。日本語の「チョット マッテ」をスタッフが使うこともある(笑)。
  そして、最後は心のこもった日本語。叱ったり、本当に大事なことは日本語で伝える。もちろん、その後で英語で説明するが、やはり日本語の方が気持ちが伝わる。誤解は生まれない。その昔、お店がオープンする時、ガスや水回りの工事がいい加減で、すごく遅くて、酷かったので、業者に対して、「おどりゃ、えーかんげんにせーよ!」と心を込めて怒鳴り飛ばしたことがある。相手は腰を抜かし、床に尻餅をついて、ビビっていた。広島弁、最強。ミャンマーでもしっかり通用した。
 ちなみに、新型コロナの前、Tokyo Tomato Cafeではスタッフの要望に応えて、毎回、ミーティングの最後に日本語レッスンをやっていた。また、日常的に彼らは僕にミャンマー語を教えてくれるというか、覚えさせようとしてくる。おかげで、僕も片言なら喋れるようになりつつあった。

胃腸は強いがメンタルは弱い

 ミャンマー人とのコミュニケーション、特にマネジメントの上で気をつけておかないといけないこと。一つは前述の「彼らはみんな嘘つきだと思え」であるが、もう一つは、彼らはプライドが高い、誇り高き人々であることだ。「人前で叱ってはいけない!」というのは東南アジア共通でよく知られるマネジメントの鉄則。彼らは面子を大切にするので、そこは配慮が必要。
 もちろん、叱ることと、注意することは別物で、注意はみんなの前でやった方が全員に注意を喚起することになり効果的だ。そして、そのほうが本人も傷つかず、素直に受け入れることが多い。本人だけに対して、注意し責任を追及するのではなく、全員に対して、注意を促すのである。
 このような場合、Htet Myat Aungなんかは、「自分がミスしたから、全員に同じことをやらないよう注意喚起できた。だから、俺は結果的に良いことをしたのだ!」と考える。これは何も、超ポジティブ男の彼でだけでなく、同様に考えるミャンマー人も多い。失敗したり、迷惑をかけて、逆に「いいことをした」「徳を積んだ」と考えられるのだから、大した国民である(笑)。
 とはいえ、彼らのメンタルはとても繊細で弱い。傷つきやすく、壊れやすい。ストレス耐性が低いというか、辛抱が効かない。もう、ガラスのメンタルなのである。だからこそ、ある程度の配慮が必要だ。
 この辺のミャンマー人との付き合い方というか、マネジメントの機微は四年をかけて失敗を重ねながら培ってきたものだ。実際に、数人が僕のマネジメントの失敗でお店を去っている。それも、突然、あっさりと辞めていく。まあ、この辺のエピソードも追々、書いていきたい。

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 つい先日も、難しい局面があった。毎日の売上や入出金などはGoogleスプレッドを使って、お店と僕のPCで常に情報共有している。エクセルのようなシートに店舗売上(入金)、デリバリー入金、デリバリー販売、そして、経費の勘定科目が並び、一日の収支、そして、トータルのキャッシュフローや原価率が自動的に計算されるようにしている。そして、その右に銀行の預金残高、お店のレジにあるお金を入力するとその合計が表示され、それが帳簿上のキャッシュフローと一致していけないといけないと指導してきた。
 つい先日、ふとそれを見ていて、レジの残金が37,630ksになっているのに気がついた。ミャンマーで現在流通している紙幣の最小単位は50ks。だから、レジに30ksが入っているはずはないのである。原因はすぐわかった。先月のデリバリーサービスHi So Mallからの入金が187,680ksになっていた。これはあくまで伝票上の金額で、実際、支払われた額は切り上げで、187700ksのはずである。Thi Riもすぐ原因がここにあることはわかったようだ。
 ただ、この時に僕の伝え方が悪かった。「実際に君が受け取った金額と、入力している金額が違ってるよね?」。今、改めて日本語で書いてみて、これは良くないなと良くわかる。これでは「お前が売上を着服しただろう!」と疑ってるように受け止められても仕方ない。「私はキャッシャーとして信用してもらっていない?」そういう猜疑心が生まれてもおかしくないケースである。
 実際、Thi Ri にそんな気持ちが芽生えたかどうかは定かではないが、このわずか20ks(約1円40銭)の修正が結構、大変だった(汗)。「私は悪いことしていない。私は間違っていない。」「うん、そうだよ。知ってるよ。でも、これは違うよね」。特に、営業時間内でのレジ締めだったので、昨日の残金、今日のここまでの売上(入金)と出金を計算させ、実際のレジにあるお金の写真まで送ってもらっての、ヒヤヒヤする緊張感でのやりとりであった。
 これが現場で顔を付き合わしてのやりとりなら、問題ない。しかしすべてはfacebookのメッセンジャーでのやり取り。相手の顔色もわからないし、ましてや機嫌を損ねて、一方的に通信を切られたら手の打ちようがない。まして相手はミャンマー人の若い女の子である。

Zoom導入。リモート・マネジメント大作戦開始

 しばしば、日本でも60歳前のいい歳したおじさんが若い女性といい感じになり、SNSや電話でつながっていたのに、ある日突然、理由もよくわからないまま音信不通になり、途方に暮れるという話を聞く。いわゆる「断絶」が突然訪れる。これは僕の体験談じゃないけど、まあ、近いケースは少なからず経験したことはある。
 だから、Thi Riとのメッセンジャーでのやり取りはもう冷や汗ものだった。結局、ことなきを得たが、以来、彼女は毎日のメッセンジャーでの売上報告の際に、現金を全て写真に撮って送ってくるようになった(笑)。
 こんなこともあり、やはりface to faceのコミュニケーションは大事だと痛感した。先に、コミュニケーションは、いい加減な英語とご愛嬌のビルマ語、そして心のこもった日本語の3つと書いたが、実はもう2つある。目と目で通じ合う以心伝心とジェスチャー、ボディ・ランゲージである。
 そして、今週の月曜日(2020年5月11日)から毎週、月曜日の朝はリモート・ミーティングをすることにした。1回目は各自が自分のスマホを使ってメッセンジャーでやったけど、ハウリングがすごくてちょっと使えない。そこで、次回からZoomでやることにした。そして、翌週には帰省中のスタッフも入れて、10人で毎週ミーティングをしようと思う。リモート・マネジメント大作戦のスタートである。
 冒頭の写真は昨日のテストの時の画面写真。メインで映ってるのがキャッシャーのThi Riである。いま、21歳。可愛いでしょ!チンポ・カウデ。

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