学校警備員をしていた頃 その4

 以前、学校警備の仕事をしてた頃のことについて振り返って思い出せることを書いています。
※ ひとつ前の話→学校警備員をしていた頃 その3

 目の前に人がいると調子が出るタイプ
 学校側のハンコが必要な書類が日報以外にもう一つあった。月報と呼ばれる一か月分の報告書だった。報告書と言っても、「何日 ○時○分~○時○分 異状を認めず。」という具合に仕事をした日にちと時間と「異状を認めず。」をずらずらと並べて書いていく簡単なもので、これは、毎月1ヵ月分書いて、月の最終日か翌月の始めに校長先生に記名押印をしてもらう必要があった。
 それから、書類ではないが、「副校長に来月の希望を聞く」という仕事もあった。「うまく、副校長の時間があいてそうなところで捕まえて、来月の午前・午後の希望を聞く。そして、それをメールで支社に報告する」というのが仕事の流れ。支社の担当者が、その希望を受けて、この日はこっちの学校が午前であっちは午後、という一か月分の表を作り、教育委員会に提出する。
 最初は「少し面倒だなあ」と思っていたが、コツをつかんでゲーム感覚で楽しくやればたいしたことではない。ということがわかっていった。
 T小の遠藤副校長は、毎回「特に希望はありません」と言うので、ただそのことを確認するだけでよかった。
 O小の中山副校長(仮名)の方が、少し面倒で、少々時間があいている時に捕まえないといけない。中山副校長が次の月の予定を言う時は、必ず日程表を持って廊下に行き、「えーと」「ちょっと待てよ」とか合いの手のようなことを言いながら「何日は午後がいいです」などとずらずらと述べていくのが流儀だった。毎回必ず、「午前は何時までだっけ」「午後は何時からだっけ」と同じことを何回か質問しながら、決める。私も聞かれたら必ず「午前は12時までです」「午後は1時からです」と毎回同じことを答えていた。これまた、合いの手のようなものだ。
 時間のある時に適当にメモを書いておいて、「はい」と渡してくれればお互いに簡単ではないか、と思うが、目の前に人がいて話しながら決めないと調子が出ない人なのかもしれない。いわゆる「話しながら考えるタイプ」なのだろう。
 大学教授で、学生に講義した内容でないと本が書けない人がいるけど、それとちょっと似ていると思った。

 これら以外のもっと日常的なことなのだけど、学校に着いたらまず副校長のところに挨拶に行っていた。そこで、何か指示があれば言ってくれる。何にもない日が圧倒的に多かったが、保護者会とか研究会などがあって、「この時間帯は○○門のところにいて欲しい」といった指示がある時もある。
 仕事をしている時間の中では校門の前に立っている時間が圧倒的に長かったが、こういった連絡・相談的なことも少しはあった。

 心の病にかかっている人に向いている仕事
 始めてみると、自然が豊かで環境のいい地域、という以外にもいいところがあった。
 仕事の場所と時間帯が上品な住宅地の昼間なので、専業主婦とか、小さい子どもとか、おじいさんやおばあさん、可愛い犬などと接する機会が多くて楽しい。主婦やお年寄りは、犬を連れている人も多く、犬をかわいがってあげると喜ばれた。それと、生徒の登下校の時は、可愛い生徒たちにも会える。
 また、主婦の人は、乳母車で小さな子供を連れいつも楽しそうにしている人も多く、挨拶をすると楽しそうに挨拶を返してくれる。特に朝T小学校に行く時は、いつも双子のかわいい子を乳母車に載せて楽しそうに歩いているお母さんとよく会った。
 1日の日給が7500円と安くて、それが大問題だけど、それを除けば、癒されることが多く楽しい仕事だった。
 やめる人も多かったが、やめた理由は、給料が安いのと夏休みに仕事がなくなることのようだった。仕事自体が嫌で辞めた人は、私の知っている範囲ではいなかったと思う。
 ブラック企業に勤めていたために心の病にかかってしまった人などに向いている仕事だと思う。定年退職になった人が年金をもらいながらやるのに向いてそうなのだが、60代の人はいないようだった。
 それと、学校警備員には女性が一人もいなかった。これについては、「採用する側で女性をとっていないわけではなく、応募してくる人がいない」というのが、内勤者の説明で、女性に人気がない仕事なのか、それともたまたまなのか、わからなかった。ちなみに、5月の連休中に上野動物園で仕事をしたことがあるのだが、そこは、女性の警備士が多かった。警備士の仕事にも、女性に人気のある現場とそうでない現場があるのだろう。
 土日などに別の現場にいって、他の隊員と話をすると、「学校は楽で楽しいらしいですね」と言われたりする。確かにそのとおりなので「そうですね。楽しいですよ」と答えていた。
 もちろん「工事現場が好き」とか、「花火大会みたいな大規模なイベントが楽しい」等々人それぞれの好みもあるが、一般的に言えば、学校警備は楽しい仕事だと思う。
 実績報告(週1回、支社に行って、勤務した記録を提出すること)や研修の時などで、10人くらいは、同じ学校警備をしていた人と話す機会があったので、この仕事はどんな人がやっているのか、だいたいの傾向はわかった。
 年齢はあまり聞いていないが、見た目とか話をした感じからすると、35歳より下の人と50歳以上の人がいて比率としては、若い人の方がやや多かった。警備士自体は、年配の人が多い仕事なので、そこが少し違う。
 35歳以下の人は、ずっとフリーターだったという人と、一回はちゃんとした会社などに就職したが、合わないので辞めた、という人がいた。この仕事でずっとやっていきそうな人が一人だけいた(本山さんという人だった)が、それ以外は、「今後どうしようか考えながら、とりあえずこの仕事をしている」とか「専門学校に入るなどの目標がある」といった人たちだった。
 50代の人は、「他にこれといういい仕事もなく、ずっとこの仕事を続けて行く可能性が高い」という人たちだった。
 いろいろな人と話してみると、「仕事は大変ではないが、賃金が安いということをどう考えるかが課題」というところは、だいたい共通していた。
 特に若い人にとっては、この仕事をやっても目に見える形で何かが身に付くものではないので、将来のことを考えると私としてはあまり薦められない。教育・保育とか介護などの方面に進みたい人が1~2年くらいアルバイトとしてやるのだったら、感性を養うという面もあり悪くないかもしれないが、「楽だ」ということは、「何も身につかない」ということに通ずる。例えば、飲食店とかパチンコ屋等々のアルバイトの方が、怒られたりすることも多そうだがいろいろなことが身につくのではないだろうか。

※ 次の話→学校警備員をしていた頃 その5

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