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【NYY #2】田中将大が何故退団をしてしまったか

こんばんは、KZillaです。

前回はMLB30note企画(勝手に名前を縮めました笑)の初投稿として、ヤンキースについて軽く解説をさせて頂きました:

予告をさせて頂きました通り、第2弾では今季のヤンキースの戦力構想について解説をしていきたい

...と思っていましたが、記事の構成を考えていく中で、どうしても避けて通れない話題について触れた上でないと上手く進めない、と言う結論に至りました。

その話題とはズバリ、田中将大の退団です。

はじめに:元々は再契約が有力視されていた

この記事を読んで頂けるくらい野球に興味がある方であればご存知かと思いますが、2020年オフにヤンキースからFAとなった田中将大は、今年1月にNPB時代の古巣、東北楽天イーグルスと2年18億円+出来高の契約(推定)を締結しました。

まだまだMLBでの活躍が出来たであろうマー君が最終的に何故NPBへ復帰をしたのか、本記事で経緯等を含め簡単に説明をしていきたいと思います
(マー君個人の考え等よりかは、ヤンキース側の事情等を踏まえた説明を中心にしていきます)

まず、マー君は2013年オフにポスティング制度を経てヤンキースと7年1億5,500万ドルの契約を締結し、当該契約が2020年10月に満了しFAとなりました。
契約最終年(2020年)に突入したタイミングよりメディア等々では今後の去就について色々と語られましたが、大体の球団関係者・メディア関係者が「最終的には再契約するでしょう」との総意でした

再契約が濃厚とされていた理由としては以下が挙げられていました:

再契約有力視事由①:プレイオフでは圧倒的な成績を残しているマー君は、プレイオフ常連のヤンキースにとって不可欠な存在である

まず大前提としてヤンキースは田中将大を引き止めたいであろう、と思われていた点です。
レギュラーシーズンでは成績に若干波があったり(2014年からの防御率が2.77、3.51、3.07、4.74、3.75、4.45、3.56)したものの、
(初年の右肘靭帯の部分断裂を除き)大きな怪我はなく安定的に先発をしている点(2016-2019は31試合、30試合、27試合、32試合出場)はかなり評価されていました。

そして何と言ってもマー君のプレイオフでの活躍が凄まじく、誰もが「Big Game Pitcher」と、名の通り大事な試合で真価を発揮する投手として認めていました
初プレイオフ登板の2015年ワイルドカード戦から2019年ア・リーグ優勝シリーズ(ALCS)までの成績が以下の通りでした:

田中将大 プレイオフ成績 2015~2019年
8登板 46回 防御率1.76 WHIP0.78 37奪三振 5勝(3敗)

そして実際投げ勝っている試合がシリーズ展開において非常に大事な試合ばかりで、例えば2017年ALDSの対Cleveland Indians第3戦では0勝2敗で後が無い中、7回無失点と完璧なピッチングを観せ(しかも味方の援護は1点のみ)、逆転劇のきっかけを創り出しました。

また同年のALCSでは後にサイン盗みが発覚したアストロズを相手に、初戦は6回2失点で惜敗をしてしまうものの、2勝2敗で迎えた第5戦では再び7回無失点と圧巻し、リーグ優勝に大手をかけました

※結果その後の2試合は負けてしまいワールドシリーズ進出は逃してしまうことに。
その2試合はサイン盗みが行われていたアストロズの本拠地開催だったので、負けた理由はお察しくださいませ・・・

2018年・2019年においても好投を見せ、結果2019年までは(※)プレイオフにおける圧倒的な実績を残しました。
ヤンキースとしてもワールドシリーズ優勝の1ピースとして欠かせないと思っていたことは間違えないでしょう。
※2020年のプレイオフについては後ほど触れますので、今時点は無視してください

再契約有力視事由②:マー君本人も残留を希望している

そしてもう一つの理由は、「田中将大もヤンキースに残りたい」と思われていた点。
当然ヤンキースがマー君を欲しがっても、マー君が残留したくなければ再契約は出来ないが、この点は相思相愛でありこのパートナーシップが続くであろう、というのがメディアやファンにおける共通見解でした。

こう書き出すとただ当たり前なことを言っているように見えますが、FA前に残留意欲を公言するケースはメジャーでは意外と少ないです。
と言うのも、(選手の観点からは)FAは他チームからのオファー等にレバレッジをかけて、自身が一番行きたいチームからいかに高いオファーが引き出せるのがポイント。
つきまして、例え現所属に残留したいと思っても公言しないことが殆ど(正確に言うと代理人に口封じされている)であり、契約交渉上不利となる材料は相手に一切与えない、というシビアな世界です。

ちなみに上記の通りですので、マー君が残留希望を公言したことはありません。
実際、まだFA中だった2021年1月初旬に一部メディアで「田中将大はヤンキースかNPBの二択しか考えていない」との報道がありましたが、マー君本人が自身のTwitterで否定しました:

では何故この相思相愛説が世論となっていたのでしょうか。
最大の理由は、2017年オフに契約のオプトアウト権(契約破棄権)を行使せず残留したことです。

2017年シーズン終了時点で、7年1億5,500万ドルの契約のうち、4年8,800万ドルが満了・払出済、残り3年6,700万ドルで迎えた選択。
仮にマー君が2017年オフにFAとなった場合、ほぼ確実に既存契約の残り3年6,700万ドル以上の新規契約を手に入れられるであろう、というのが当時の総意でしたので、多くのメディア等ではマー君のオプトアウト権行使は有力視されていました
(例として、下記MLB Trade Rumorsでは5年1億ドルの契約が予想されていました:)

このような状況の中、マー君はオプトアウトせず、「ヤンキースに残るという決断は簡単でした。このチームとファンと一緒にワールドシリーズ制覇をしたい」との声明を出しました:

ちなみにオプトアウト権行使を匂わせ、チームに契約延長を持ち出すという選択肢もあったかと思います。
実際、長年ヤンキースのエースを務めたCC Sabathiaや現在ヤンキースの守護神を務めているAroldis Chapmanもオプトアウト権行使を交渉材料にそれぞれ1年の契約延長を勝ち取っています。
しかしマー君に関しては(舞台裏ではそういう会話があったかもしれませんが)そのような報道は全くありませんでした。

この「田中将大は数千万ドルを捨ててでもヤンキースに残留した」という事実が、マー君のヤンキース愛を物語る確固たる証拠として取り上げられてきました。

どこで変わったのか:やはり再契約は無しかも・・・?

少し脱線しましたが、前述の通りマー君はヤンキースとの再契約がかなり有力視されていました。
しかし、2020年を通して少しずつ状況が変わりはじめてしまいます。
最終的には2020年中に起きた2つの出来事により、再契約が一気に危ぶまれていったと思われます:

再契約雲行き▲案件①:コロナ影響による球団収益減少

これは容易に想像出来ることかと思いますが、新型コロナウィルス感染拡大の為ホーム戦に観客を全く入れられなかったので、ヤンキース球団の収益が激減しました
ヤンキースを運営している企業は非上場である為、詳細な財務データは公表されていませんが、金持ち球団として有名なヤンキースでさえコロナ影響は小さくないでしょう。

これを踏まえ、ヤンキースのフロントも「経済的に苦しい中、今までほど積極的な補強は出来ない」旨の発言をし、2020年オフにFAを迎える選手が特に多い中、年俸が比較的高いマー君が削減対象となるのでは、と囁かれはじめました

尚、説明すると更に長くなってしまうので本記事では深堀りしませんが、MLBには「ぜいたく税」という制度があり、あるチームの選手年俸総計が一定水準を超えると追加金銭徴収(「税」はこれを指す)やドラフト指名順の繰り下げ等のペナルティを受ける事になる、実質的なサラリーキャップとして機能しています。
ヤンキースはこのぜいたく税を回避すべく、2020年オフはどのみち年俸総計を削減する予定ではありましたが、コロナ影響がこれに更なる拍車をかけた、と理解頂ければ良いかと思います。(実態はもう少し複雑ではありますが)

再契約雲行き▲案件②:2020年プレイオフでの失態

前述の通り、2019年までは「マー君=プレイオフ神」との評判でしたが、2020年プレイオフでは残念ながら良い成績を残せず終わってしまいました

ア・リーグWild Cardシリーズの第2戦ではCleveland Indians相手に以下の投球内容となりました:

田中将大 2020 AL Wild Card Series Game 2 
4回 5安打 6失点 3四球 3奪三振(防御率13.50)

ただ、上記の数字には表されていない要因として、当日はかなり天候が荒れており、
・試合開始が当初想定より1時間程度遅延
・初回の裏(Indiansの攻撃)開始時に雨風が凄まじい中何故か試合が中断されず
・マー君が2安打1失点を許した後ようやく中断
・33分間の遅延後、再登板するものの本調子からは程遠く更に5失点
というとても望ましくない環境下ではありました。
(ちなみにかなりの乱打戦を経て、最終的にはヤンキースが勝利・次ラウンド進出を決めています)

状況が良くなかっただけでしょう、とメディアもファンも「一度きりの失態」として片付けていた矢先に、次の登板でも似たような結果を出してしまいました:

田中将大 2020 ALDS Game 3 
4回 8安打 5失点 1四球 4奪三振(防御率11.25)

前回は悪天候や過去のプレイオフ実績を踏まえ、ファンやメディアも比較的寛容な反応ではありましたが、今回は2試合連続で似たような不甲斐ない結果を残してしまい、批判が目立ちました。
今までの「プレイオフは頼れる田中将大」というイメージが崩れてしまい、メディアやファンから「ヤンキースに欠かせない存在」として認識されなくなってしまいました

結論:マー君はコストカットの犠牲になってしまった

最悪のタイミングで起きてしまった上記2イベントですが、それでもヤンキースは7年も先発ローテの一角を担ったマー君を必要と判断するのでは?
そう思う素材は多く揃ってはいましたし、決してヤンキースは「田中将大はいらない」とは判断した訳ではないと思います。
ただ、結果として再契約はしていません。何が決め手となったのでしょうか?

簡単に言うと、ヤンキースは「田中将大の年俸分で先発投手を2人取れる」と判断しました

ヤンキースの2020年オフの大きい課題の一つとして、先発5人のうち(マー君含め)3人がFAとなっていた為、限られた資金で先発3枚をどう埋めるか、というものがありました。
当初想定ではマー君以外のFA2人James PaxtonとJ.A. Happは放出し、マー君は残しながら内部昇格+FA補強で残り2枚埋める、と言う説が有力でしたが、最終的にはマー君の想定年俸も1人の先発に宛てる余裕はない、との判断が下されたと思われます。

昨シーズンと今シーズンの想定先発陣の比較をご覧ください:

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黄色が入れ替えとなった投手となりますが、田中将大、James Paxton、J.A. Happの3人が退団し、代わりにCorey KluberとJameson TaillonがFAで加入、そしてDomingo Germanが内部昇格(出場停止処分から復帰)しています。
ここで年俸に注目頂ければ、フロントの意図が明白だと思います。
これらの入れ替えにより、計3,700万ドル程度の年俸削減に成功しています。
そのうち、元々残す予定がなかったPaxton及びHapp分の2,950万ドルはどのみち削減できたとして、残りの700万ドル程度はマー君の代わりにKluberとTaillonを獲得したことによる節約分にあたるので、インパクトは決して小さくありません。

ちなみに「マー君の年俸分で先発2枚取れる」と発言をしたのはヤンキースのGM Brian Cashmanだが、もしマー君がMLBに残った場合、年俸は1,200〜1,500万ドル程度が想定されていた為、Kluber+Taillonの合計年俸は1,325万ドルと概ね計算が合います。

つまり、ヤンキースにとってマー君放出は「ローテ全体の底上げの為の余儀ない犠牲」でした。

おわりに:いずれはヤンキース復帰が見れるかも?

(かなり長くなってしまいましたが)田中将大の退団に纏わる経緯等を主にヤンキース周辺の視点よりまとめてみました。やはり球団運営はかなりシビアにやっており、7年間活躍をしファンにも愛されたマー君でも(安易にとは言いませんが)放出を決めるのは個人的には結構ショックでした。

またマー君本人の意思としては、記者会見や本人のYouTubeチャンネル等でも言及されている通り、やはりヤンキースと再契約をしたかった様です。
古巣のイーグルスへ戻ってくることに関しては当然嬉しく思っているとのことですが、2年契約ながら1年目終了後にオプトアウト権があったり、本人が「ヤンキースでやり残したことがある」との発言をしている等、マー君のMLB復帰の兆しが所々感じられます

ちなみにヤンキースGMのCashmanもマー君の将来的なヤンキース復帰の可能性につき問われた際に、「扉は決して閉ざされていない」と答えているので、数年前とは形が違えど、マー君とヤンキースの相思相愛関係は続いているのではないかと思います。

2022年か2023年、マー君が再度ヤンキースのユニフォームを着て投げる姿が見られることを、私は大いに期待しております。

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