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第五話「漢の料理はカレー味よ!」

刹那少年は男を見下ろしていた。

現在、朝の11:30。ギリギリ朝と呼べる時間。

父は既に会社に行っている。

「お父さんは夏休みなんて殆どないよ。刹那はいいなぁ。でもちょっと休み取ってどこか旅行でも行ける様にするから、それまでには宿題とか終わらせておきなね。」

優しい声で父が先週言っていた。

いつもは父が朝ご飯の支度をするが、せめて夏休み中は、という事で交代で準備する事にしていた。

刹那と、今、見下ろしてる先の男と。

男は横になり、微動だにしない。ジャージ姿に白いマスク。予防のマスクじゃない。バイク用みたいなマスク、と言うよりヘルメットだ。

この男は部屋でもヘルメットを被っている。

刹那が物心付いた時から被っていて、正直素顔を知らない。父親の弟なので何となくの想像は付くが、あまり興味もないので詮索もしていない。

なのでそのヘルメットを被ったまま寝ている事にも違和感は感じない。あ、感じないのではない。干渉していないだけだ。

微動だに、ではなく、良く見ると微かに肩や腹部が一定のリズムで上下している。つまりは寝ているのである。

刹那は足先で男の足をつついた。

反応はない。

今度は少し強めにつついた。

それでも反応はない。

「流石にお腹空いたよ…。」

独り言が出てしまった。

「あぁ、ごめん忘れてた。今日俺か。」

「!!」

「!!………ん?え、何!?」

「…寝てるのかと思った。」

「寝てたけど…。お、俺寝起き良いから。」

「…良すぎるでしょ。」

刹那はこの人気持ち悪いな、と思った。

「カレーでいい?漢の料理はカレー味!」

カレーならカレー味だよな、と刹那は思った。が、ちゃんと覚えている事は好感が持てる。今からカレーなんて作ったらすぐ食べられないじゃん、と思いつつも、何も言わないでいた。



目の前にカレーがある。

「いただきます。」

マスクの男は、器用にマスクを上げ「極力顔が見えない様に」食べている。

「作るって言うからてっきり仕込みからちゃんと作るのかと思ったよ。」

「カレーならレトルトのコスパ最強だよ。だって野菜買ってルー買って、肉買って煮込んで、光熱費だってかかるじゃん?レトルトならそれが100円とかだし。」

「………。」

「何より寝かせる時間がない。」

まるで自慢しているかの様に、スプーンを立てている。

正論ではあるが、こういう大人にはなりたくないな、と刹那は思った。

「あ、あと、今日夜中ちょっと出かけるから。」

「ん?どこ行くの?」

「多分その辺だと思うんだけど。」

「ふーん。」

「たまには仕事らしい事しないとね。」

「………。仕事、してたんだ。」

「馬鹿言っちゃいけないよ。刹那ちゃん。俺プーとかじゃないからね!」

「プーだと思ってた。」

「おいおい。んな事ある訳ないだろぉ??」

「で、何の仕事やってるの?」

「…ん?んー、えーと…。」

「………。」

「…内緒♫」

刹那は絶対にプーだな、と思った。


次回予告!

遂に野郎が現れた。これは偶然?いや、たまたまです!それを偶然と言うんだぜ!

次回!第六話「臭え物には蓋をしろ!」

真冬に真夏の事を書く怪異!!

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